俺のことが好きな紺野さんはポンコツかわいい
坂本ず
ポンコツとの出会い
金崎優磨の日常がポンコツすぎて辛い
人にはそれぞれ、トラウマというものがある。イタリア人と日本人のハーフで、ある程度整った顔立ち。高身長で細身、男友達も普通にいる、決してラノベの主人公にはなり得ないイケメンの俺こと
一言で言えば──女性恐怖症。
とはいえ、普通に親しい女友達もいるし、何も頑なに女性を拒絶しているわけではない。ただ一線、女性と付き合うことが出来ないのだ。どうしてもそのラインを越えることが出来ない。怖い? いやいや、そんなもんじゃない。学年主任の鬼軍曹と評される郷田先生が産まれたての赤子同然のように可愛く感じるほどだ。
「──どうしてですか!?」
「え」
「他に好きな子でもいるんですか!?」
そういえば、校舎裏に呼び出されて、告白されている最中だったっけか。
今時、校舎裏に呼び出して直接告白する時点で、君は他の子よりも遥かにポイント高いんだけどなぁ。
「特別好きな子はいないけど」
「……そう、ですか……」
女の子は肩を落とした。
「いや、別に君に魅力がないってことじゃないからね!」
「……はい、分かってます、私が世界一可愛いってことはっ!」
「は?」
「でも一つ、教えてください」
「……何かな?」
「金崎君ってホモなんですか?」
「は?」
「だってみんな噂してますよ!? イケメンなのに全然彼女とか作ろうとしないから、金崎君実はホモ説を!」
「違う」
「でも、それなら私、全然この身を引きます!!」
「だから違う」
「あっ、そうだっ!!」
☆☆☆
「はぁぁぁ…………」
少し長めの溜息。
「まさか、あの子が腐女子だったなんて……」
あの後、否定してるのに延々とオススメの男を紹介されまくった。学年主任の郷田先生を勧められた瞬間逃げ出したけど。
夕焼けの照らす空の下をトボトボと歩いていると、校門の前で見知った顔を発見する。
「あ、さっきの腐女子が一番オススメしてた奴」
「は? 何の話?」
茶髪で、ピアスを開けていて、中肉中背で、いかにも頭悪そうな男子生徒──阿久津。
悲しいことに俺と阿久津は幼稚園からの付き合いで、唯一無二のマブダチである。家もご近所であるため、高校生になった今でも一緒に帰ったりしている。まあつまり、俺の用事が終わるのを律儀に待っていたわけだ。
「どうだった?」
並んで歩いていると、すぐに阿久津は聞いてきた。
「ん、まぁ、分かるだろ。お前とこうして帰ってるってことは、そういうことだ」
「もったいなー」
「いや、お前、あの子の本性を知ったら付き合わなくてよかったーって心から思ってるよ」
「お前、まだヘソ曲げてんの? 本性とかどうでもいいから、いい加減彼女ぐらい作れよ」
「ヘソ曲げてんじゃねえよ。れっきとしたトラウマだから」
阿久津は隣を歩きながら首を傾げた。
まあ、側から見れば、俺の悩みなんて贅沢すぎるし、聞くに耐えないものなのかもしれない。が、考えてみてほしい。詳しい詳細は伝えることはできないが、中学の同級生に俺は『ヘタレ粗チンカス』と呼ばれている。重ね重ね、詳しい詳細は伝えることはできないのだが。
あの事件以降、俺は女子という生き物の本当の恐ろしさを知った。
人間とは裏で何を思っているか分からない。決して表に出さないこともある。それが人間であるし、多少のことなら俺も目を瞑ろう。しかし、女子のそれはあまりにもドがすぎる。え、二重人格とかじゃないですよねっ? って心配になるほどに。
「じゃあ、逆に、優磨はどんな女の子なら付き合える?」
「……お、女の子以外」
「おっと、それは男友達として身構えてしまうな」
「いや冗談だよ。うむ、しかし、改めて問われると、意外に難しい疑問だな。何せ、振ることばかりを考えてきたからな。どういう女の子なら付き合えるか、か」
俺は立ち止まって考える。
「女の子らしくない子? つまり、サバサバ系。いや、アイツらはダメだ。『私サバサバしてるんで!』とかいう女子は大抵がビッチだ。本当にサバサバしてる子は自分からサバサバしてるとは言わないし、そもそもサバサバしてたら何? ヤっても恋仲には発展しませんよ? はっ、ウケる。じゃあ、スポーツ系? いや、スポーツ系は精力の塊だと昔聞いたことがある。うーむ、ヤンキー系? ヒィィ怖い!」
「お、おい……?」
「そもそも、俺は清楚系が好きだったはず……。いや、清楚系が一番の地雷だ。トラウマを忘れたのか!? 清楚清楚だと安心しきってたら腹の中はドス黒のサイコパスメルヘン女だったじゃないかっ!?」
「おい!」
「はっ……」
阿久津に肩を強く掴まれ、我に返る。
「す、すまん。自分の世界に入り込んでしまった」
「いや、俺こそすまん。俺が優磨に変な質問しちまったせいだ。まあ、彼女なんて生涯でたった一人、結婚する人以外は必要ないもんな」
「……いや、このままだとヤバい。俺、結婚できないかもしれん。真心込めて育ててくれた両親に顔向けできん」
「なら、次に告ってきた人はもうちょっとよく考えてみたら?」
「いや、今までの人もよく考えてるんだけど。むしろ、考えすぎて振っちゃうんだけど」
「なら何も考えず付き合ってみろ」
「いや、それは……」
「ああもお鬱陶しいなぁ!」
阿久津は何故か半ギレ気味にスマホを取り出し、何やら操作している。しばらくして、阿久津は俺に自分のスマホの画面を見せてきた。
とある人物のラインのページだった。
『コンチン丸』というユーザー名で、トップ画像は見知らぬ5歳児くらいの男の子。そして、アイコンには女子高生三人のプリクラ。誰一人として見たことがない。
────え、コンチン丸って誰ッ!?
「今、この子にお前のラインを送った。だからしばらくしたらラインが来るはずだ」
「い、いや、何勝手なことしてんだよ!? だ、だいたい、誰だよっ、そいつ!?」
「俺の個人的な知り合い。お前のこと気になってるって子。悪い子じゃないし、ラインぐらいなら問題ないだろ? 少し話してみて違うって思ったらブロックしてくれて構わん。まぁ、そん時はこの子も傷つくと思うし、俺からも一発くらいは殴られる覚悟はしておけ」
「はっ!?」
「だけどよ? それが恋愛ってもんだと思うぜ? 怪我しない恋愛なんて存在するかよ。傷つくのが怖い? イケメンに生まれた自分を恨め! 世の中にはな、救急箱も用意してんのに、恋愛すらさせてもらえねぇ奴だっているんだ」
「──それがお前か」
「っるせぇよ! でも、なんか、お前見てたらいたたまれなくなった。イケメン童貞に同情しただけだよ」
「……阿久津」
だけど、なんか、勇気が湧いた気がする。トラウマを乗り越えてみようと思った。
俺が好きな言葉がある。
『神様は乗り越えられる壁しか与えない』
俺はもしかしたら、このトラウマを乗り越えられるほど強くはないのかもしれない。けど、俺のことを思ってくれる仲間がいれば、乗り越えられるような気がした。
「ぷはっ」
俺は思わず吹き出した。
「ありがとよ!」
そう言って、俺は阿久津の背中を叩く。
「へっ、貸しだからな」
俺は、本当に、最高の友達を持った。
────いや、最高ではなかった。
あれから一ヶ月が過ぎた。コンチン丸からのラインは一通も来なかった。
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