第18小節目:『ラスト!』
* * *
「は、何これ」
放課後のチャイムが鳴るころ、ゆりすけからLINEが2通届く。
1通目は、普通のメッセージ。
そして、もう1通は……。
「くそすけ……」
へとへとになった
『それから、さこはす。……お株を奪ってごめんね!』
「……あっ」
ゆりすけが出がけに行ったことを思い出して、声が出てしまう。
あれ、そういう意味だったのか。
だとしたら行かせなかったのに……。今からでも担任にサボりだって言いに行こうかな……。
自責と後悔と
今度は拓人から。
URLと、
小沼拓人『あくまでもデモだから』
のメッセージ。
「デモ……」
デモ……!?
うちは急いでイヤフォンを取り出して、耳に入れる。
震える指で再生ボタンを押すと、
『
「まじか……」
日本語の4カウントから始まったそれは、弾き語り音源だった。
歌っているのは、うちの幼馴染。
目を閉じて、一言ずつ確かめるように、味わうように、耳から身体に取り込んでいく。
再生を終えたころ、そっと開いた両目からは玉みたいな涙が
これは、苦しいほどにうちらの歌だ。
その歌を聞いて、うちは自分はどれだけくだらないものに
なんだ。
文字でも歌詞を読んでみたいと思ったちょうどそのころ、ゆりすけがLINEのノートに歌詞を貼り付けた。
一行目を読んだ瞬間。
「……ゆりすけ、これ、まじ?」
自分の声がひっくり返るのが、やけにおかしかった。
* * *
* * *
『ラスト!』
『
その記号はまるでただの『五』
押すと
ライターが点けたあの火
解凍しようとして
その資格すらなかったことを知った
どんなに
未来は真っ白だったんだ
デモはもう聴かないよ
バンドじゃないと聴かない
『おまじない』読んだから
こんなにも強い気持ちになった
ずっと夢を見ていた
今日まで
いつか一緒に音を鳴らせるかな
だからこそ
ラスト!
だってもう決めたんだ
その先のわたしたちを迎えに行こう
たとえそれが死ぬほど苦しい道だとしても
どうせ他に生きる意味なんてないし
ラスト!
きっと明日のさらに
その先で「私とあなた」を塗り替えよう
たとえ それが今を否定したって
あなたにもらった声 出ないと意味なんてないし
一緒に見た夢 何一つ叶わなくても
次の夢を見よう
なんてことないよ
だって、初めて鳴らしたあの音が
この耳の中に残り続けてる
『本当』は見にくいけど
『本当』はずっと痛い
優しくなんてなくていいから
全部離そう
一つ残らず 全部
ラスト!
だってもう決めたんだ
その先のわたしたちを迎えに行こう
たとえそれが死ぬほど苦しい道だとしても
どうせ他に生きる意味なんてないし
ラスト!
きっと明日のさらに
その先で「私と貴方」を塗り替えよう
たとえ それが今を否定したって
あなたにもらった声 出ないと意味なんてないし
ねえ、聞こえる? 最後の言葉
決して振り返らないで
行っていいかなんて もう迷わないで
ほら、これで未来は空欄になった
ぽっかり空いた穴を
その声で満たして
離れ 欠けても 夢に向かう
一度ちゃんと結ぼう
そのための
せーの、
『おしまい!』
* * *
* * *
「すごいなあ、由莉は……」
私の気持ちをこんなにも正確に書いて、それを私に歌わせてくれる。
「すごいなあ、小沼くんは……」
そして、彼の歌声は私の心を貫き、
IRIAさんが立つ必要もないんだ、小沼くんがギターボーカルでいい。ううん、それがいい。
そりゃそうだ。
彼はもともと一人で全部の楽器ができる、最強の
「ほら、行くよ」
後ろから肩を叩かれて、私は前につんのめりそうになる。
「うん、
振り返ると、沙子さんがその赤い目をほんの少し丸くしているように見えた。
「
「え、そうかな?」
笑ってたんだ、私。と思って、廊下の窓ガラスを見ると、そこに映る自分は、たしかに、目に光が灯っているように見えた。
久しぶりに、その目を見た気がする。
「なんか……『負けてたまるか』って思ってさ」
「市川さんってさ、」
呆れたように沙子さんは、口角を上げて笑う。
「なに?」
「……戦闘民族だよね」
「どういうことかな!?」
そして私たち2人は、久しぶりに、いつもみたいに笑い合う。
* * *
「いやあ、なんていうか……」
仮歌を入れる前。
吾妻から届いた歌詞を読んで、おれは頬をかいた。
「なに? 文句あんの?」
「文句はないけど……思ったよりも諦めがいいというか、きっぱりと背中を押すんだなって思って」
「今の天音はこうじゃないと歌わないでしょ? 『これは、私の思ってることじゃないよ?』とか言って」
「……まあ、それもそうだろうな」
ていうか、吾妻のモノマネ、だいぶ市川をいじってるな?
「大丈夫だよ、小沼。諦めがいいのはあくまでも、A面の話だから」
「え、A面? カップリングとかあんの?」
「……ひっくり返してみせるよ」
顔をしかめるおれを、吾妻は真剣な顔で遮ってから、ニヤリと微笑む。
「だって、あたしは、amaneの作詞家だぜ?」
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