第25小節目:othersideかなた
「ウチは、『青春リベリオン』で優勝したいの」
「青春、リベリオン……!」
その言葉に、おれは息を呑む。出るのか?
「高校生限定のバンドの大会なのよ。バンド版の甲子園って感じかしら」
「……知ってる」
混乱するおれに、
「おれたちも出ようとしてるから」
「あら、知ってるなら話が早いわ。それで、確認してみたら、音源にもライブにも、高校生以外の演奏が入ってはいけないそうなのよ。まあ、そりゃそうよね。一人でも高校生がいいっていうなら、そこらへんの高校生捕まえてバイト代を払ってハンドクラップでもさせればいいってことになってしまうものね」
広末は肩をすくめてみせる。
「ウチの今の音源は、知り合いに頼んで演奏しているものなの。彼らは高校生じゃないから、このままだと出場出来ないのよ。だから、レコーディングしなおす必要があるわ。もし見つからなければ、全部を打ち込みにしなおす必要があるわね。カラオケみたいになってしまうから、気乗りしないってわけ」
それにしても、特徴的な喋り方をするやつだな。
「……えっと、すまん。そもそも、
そっと挙手をして尋ねると、案の定広末は顔をしかめた。
「どうしてエントリーできないのよ?」
「だって、デビューっていうか……」
「デビュー? してないわよ、完全なアマチュア。昨日のラジオでもそう紹介してもらったけれど。まあ、」
彼女は、自分の短い金髪を払い、自慢げに胸を張った。
「そこらへんのプロよりは知名度があるけれどね?」
「そう、なあ……」
どうやら事実のようなので言い返すことが出来ない。おれと
「だからこそ、タクトさんたちにとってもメリットがあるわ。ウチと一緒にやれば有名になれるもの」
「有名に……」
「ええ、確実に」
「……で、でも、複数バンドでのエントリーって問題ないのか?」
「さあ、調べてみたいと分からないわね。……というか」
広末は不思議そうに顔をしかめて首をかしげる。
「なんだか、あなたは、さっきから断る理由を探してるように見えるわ。どうして? 複数バンドで出られるなら、ウチと一緒に出ることは今のバンドにとっても、良いことでしょう?」
「それは、多分、まあ……」
たしかに、『有名になる』という言葉は、
……でも、なんだろう。この違和感は。
IRIAの頼み方が悪いとか態度が気に入らないとか、そういうことじゃなく、もっと根本的に何か、素直に頷けない要因がそこにある気がするんだけど……。
「多分……? ねえ、あなたたちは、」
煮え切らないおれの目をじっと見上げて、彼女は言った。
「どうして、青春リベリオンに出たいの?」
「それ、は……!」
その質問に何故か衝撃を受けて、おれは、唖然としてしまう。
なんで? ……なんでって、なんだ?
おれが戸惑っていると、沙子が前に出る。
「そういうあなたは何のために、青リベに出たいの」
「それは、質問、でいいのだわ、ですよね……?」
先ほど叱られた金髪の先輩に尋ねられて、広末は下手くそな敬語を取り戻した。
「うん。だって、デビューしたいわけじゃないんだったら、別にそんなの出なくたっていいでしょ」
「まあ、そうね……ですね」
「それに、あなたの曲、昨日初めて聴いたけど、『青春』なんて言葉のつくものに興味があるとは思えなかったけど」
沙子は無表情のまま首をかしげる。
それはそうだ。なんといってもタイトルが『青春なんて嘘っぱちだ』だし。
その指摘を受けて、広末はそっと歯噛みしてから睨むように、こちらを見る。
「……それが、理由よ」
「どういうこと」
「ウチは、青春なんてものを、」
そこまで言いかけた時。
「広末!!」
廊下の遠くから
おれが視線を移すと、おそらく広末のクラスの担任がこちらに近づいていた。おれも一年の時、体育を教わっていた教師だ。
「昨日の件について話がある。ホームルーム前に職員室に来なさい」
「ちょっと、ウチは今この人たちと話をしているの」
「うるさい! いいから、こっちにきなさい!」
担任が広末の腕を掴んで引っ張った。
「へっ、ちょ、ちょっと勝手なことしないで……!」
「勝手なことをしたのはお前だろ」
「え、うわ、ちょっと……!?」
「先生先生、お気持ちは本当にわかるのですが、それは昨今の教育現場にはそぐわない行動かと思いますっ……!」
今の今まで大変シリアスな雰囲気だったにもかかわらず、あれよあれという間に広末は職員室に連行されてしまう。
おそらく、ラジオで自分の高校を口にしたことを叱られるのだろう。
ラジオを生で聞いていた人がそこまで多かったかは分からないが、4000万回再生を超えている楽曲を歌っている覆面シンガーの出身校なんて、拡散されやすい情報に決まっている。
今ごろ、『
おれはなかば
IRIAの姿が見えなくなると同時、
「……
4人だけの廊下で、おれの
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