第2小節目:Begin Again
「終業式の日、多目的室が使えない……?」
「うん、そうなんだって……!」
職員室から肩を落として出てきた
「まじか。なんで?」
「なんか、
「えーそうなんだ……。他の教室は?」
吾妻の質問に、市川はふるふると首を横に振る。
「大きい教室はどこも同じように工事するみたい。体育館でやるには音響機材が小さすぎるから難しいし……」
「え、じゃあ、ロックオン出来ないってこと?」
「そうなんだよ、どうしよう……?」
市川に上目遣いで見られて、たじろぐおれ。いや、そんな可愛い目で見られても。
「部費っていくらくらいあるんだっけ」
「部費? どうして?」
沙子の質問に市川が首をかしげる。
「いや、学校の中が無理ならライブハウスでやるしかなくない」
「……そっか!」
その提案に、涙で潤んだ瞳の輝きが、ポジティブなものに変わる。
「そうだね! ライブハウスでやればいいんだ!」
「うん、まあ、部費があればだけど」
「ライブハウス借りるのって、いくらくらいかかるんだろう?」
「さあ……」
おれたちが腕を組むと同時。
「話は聞かせていただきましたっ!」
「わー、つばめちゃん久しぶりー!」
「あ、ご無沙汰しております……!」
ヘコヘコする平良ちゃん。今の今まで自信ありげだったのに。あとなんで久しぶりだよ。
……まあ、久しぶりか。同じ学校に通ってると、1週間顔見ないと「久しぶりー」とか言っちゃうの、陽キャあるあるだよね。たくと、そういうの、わかるぅ。
いや、それよりも。
「平良ちゃん、なんでここにいんの?」
「つけていたのですっ!」
「つけていた?」
何を? 漬物? 麺?
「
にこぱっと笑うが、普通に意味がわからない。
「この人は、
「ぞ、存じ上げてますよっ!? 自分はそこまで馬鹿だと思われていたのですかっ?」
「吾妻のストーカーだっていう認識はあったけど、市川のもやってたんだっけ?」
「ストーカー!? ストーカーじゃありませんっ!
「わあ、ありがとう!」
いや、のどかな感じ出してるけど、あなた今ストーキングされてたらしいからね?
「で、なんでストーキングしてたんだ?」
「『つけていた』だけですってば! あのあの、先ほど天音部長が校内放送で呼び出されていたじゃないですか。天音部長が悪いことで呼び出しを受ける可能性ってゼロだと思うのです。じゃあ、ロック部のことかなと自分、推理しまして、それで、ロック部の次期部長の座を狙っている自分は、その場に馳せ参じようと思った次第ですっ!」
「へえ……」「ふーん……」
よく分かんないけど、平良ちゃんがぴょこぴょこ喋るのを聞いていると、色々どうでもよくなってくるな。あと吾妻がなんか拗ねてるように見えるけど、大丈夫?
「そして、自分はネット検索が得意分野なので、ライブハウスの値段も調査させていただきましたっ!」
「今、この一瞬で!?」
「はいっ!」
「まじで特技じゃん……!」
それ、ネット回線的に無理じゃない? 平良ちゃん、もしかして身体が5G電波を受信するタイプの人……?(話的にちょっと危険)
「つばめちゃん、ありがとう! それで、いくらくらいなのかな?」
「はいっ! 例えば、先日先輩たちが素晴らしいライブを披露なさったライブハウス『
「じゅ、じゅうはちまん……!?」「あ、そうなんだー」
「え、18万だよ……?」
ライブハウスのレンタル代に驚きがてら市川の金銭感覚にも驚いた視線を向けると、『あ、やばっ』みたいな顔をしてから、
「じゅ、18万円は、すごいと、私も思います! 思っています! き、金銭感覚に、大きなズレはないので、安心して欲しいです!」
と付け足した。いや、何を安心するんだよ。
「たしかにとんでもない金額ですが、部費で
「よく知ってるね、平良ちゃん……」
「はいっ! 調べました!」
熱心な後輩だ。すぐにでも部長になれそう。
「あれ? でも、じゃあ、今年度楽器壊れたらどうすんの?」
「大事に使いましょうっ!」
にこぱっと当たり前のことを言ってくる。要するに壊れたら修理費はもう出ないんだな……。
でも、まあ。
「そういうことなら、いいんじゃないか? ライブハウスでロックオン」
「うん、そうだね! いやあ、一時はどうなることかと思った……」
「あ、でも」
おれの胸に一つ不安がよぎる。
「そうなってくると、ロックオンの運営も普通よりも労力かかるから、今日の昼話したよりも忙しくなるなあ……」
「小沼くん、運営も一緒にやってくれるつもりなんだ?」
おれの言葉に、市川が嬉しそうに微笑みながらおれの顔を覗き込んでくる。
「おれのことなんだと思ってんの……?」
「意外と優しい人、かな?」
いや、常に優しいだろ、おれ。
「とはいえ、ライブハウスでのライブの運営の仕方とか全然分かんないんだけど……」
「たしかにそうだね……」
「検索だけでは限界がありますよね……!」
再び
「話は聞かせてもらった!」
吊り目でポニーテールの先輩が、腕組みをして、胸を張っていつの間にかそこに立っていた。
「
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