第3曲目 第46小節目:SUPERSTAR
「おはよう、
「おお、
寝不足の
「小沼くん、大丈夫? 眠そうだね?」
「そうなあ……」
「昨日、
「そうなあ……」
「んんー……!」
不満げに目を細めて頬を膨らませる市川。いや、自分で言ったんでしょうが……。
おれはぼんやりした頭で昨日のことを思い出す。
* * *
有賀さんの会社のビルを出たところで、いたって真剣な顔で
「小沼、あたし、今めっっっっちゃ話したいんだけど
「わかった、そうしよう」
そんな約束をして、家に帰った。(帰り道の乗り換えでもう
そして、
『風呂入った。メイク落とした。パジャマ着てる。あたし、超戦闘モード』
「いや、リラックスしきってるじゃねえか」
『そういう小沼はどうなの?』
「いや、メイク以外は同じようなもんだけど……」
そんなくだらない導入から入り、
『まず、あたしたちがamane……の信者だというところから見つめ直さないとね』
「そうだな、よく『様』付けずに言えたな……、
『なめないで、今、あたしの唇からは血が出ている……!』
「まじか……! たしかに、
そんなくだらない
『結局、「キョウソウ」と「あなたのうた」の違いって、作った人の違いじゃんって気がするんだけど、正解それだと思う?』
「それって、市川じゃなくておれたちが作った曲でamaneは活動していくべきってことか? なんか、そうじゃない気がするんだよなあ……」
『だよねえ……』
そんな割とまともだけど、
『ねえ小沼、もともとのあたしの
「おう、頑張ってそうしようぜ」
『いや、でも、もう2時だよ?』
「わかってる。大丈夫、まだこれからだ。ここまできたら引き返せないだろ」
『中学受験の時に読んだ文章題で、『コンコルドの失敗』っていう話があってね……』
夜通し電話をしたものの、結局まったく答えには到達せず、やがて。
『小沼あ、朝チュンが聞こえて来たよお……。一緒に朝を迎えちゃったねえ……』
「ああ、こっちは
『あはは、汽車ポッポみたいじゃん。ほんとはうちの方もチュンって言ってない……。うける……』
「そうなあ……」
と
* * *
「電話、だよね? お泊まりとかしてないよね?」
「電話だけど……」
「じゃあ、まあ良いけど……。というか、有賀さんに何を言われたの? そんなに話し込むことになるほどのこと言われたの……? いじめられた?」
「んーと……」
なんと説明するべきだろうか。
シンガーソングライターamaneの信者じゃ、一緒にバンドをやる価値がないと言われたなんて伝えたら、市川はどんな顔をするんだろう。
もしかしたら『たしかにそうだね?』と納得してしまうかもしれないし、『何それ、ひどい!』と有賀さんに対して怒るかもしれないし、『そんなの分かってたよ? むしろ2人は自覚なかったの?』と
さすがに最後のはないと信じたいが、いずれにせよ自分の無価値さをわざわざ本人に伝えるなんて、
「いや……とにかくいじめられてはない。なんていうか、有賀さんの市川への愛の重さがよくわかったよ」
「ふーん……?」
「すまん、情けなさすぎてちょっと言えなくて。乗り越えたらちゃんと話すよ。今は、まだちょっとだめだ」
「分かったっすー……」
不満げではあったがしぶしぶ納得してくれたらしい。口がとがってるのは語尾が「す」だからという理解でよろしいか?
「それにしても、待ち合わせして登校するの初めてじゃないか?」
話題を変えようと、さっき思ったことを話してみる。
「ああ、うん、そうかも?」
そう言った後に、市川はそっとマフラーを
「……小沼くんがその日一番最初に会う人は私がいいなあ、と思って」
「ああ……ん!?」
なんの前兆もなしにいきなり
おれが心臓を跳ねさせながら市川を見ると、
「はあ……。あのね、なってみて分かったんだけど、小沼くんの彼女って結構大変なんだよ。いつ何があるかわかんないっていうか、彼女になっても気が抜けないというか、手を抜いてもらえないと言うか……」
「なんの話……?」
こればかりはおれが
「別に大丈夫だよ。こっちが勝手に色々考えてるだけだから」
「いや、そんなこと言ったって……」
「小沼くんが、有賀さんに言われたこと教えてくれるなら教えてあげるよ?」
「うっ……」
おれが答えに詰まったのを見て、市川は「ね?」と
「でも、そう言われてみると、こんな風に一緒に登校出来る日が来るとは……って感じだね? 最初にお話した頃の小沼くんだったら、『あ、おれは、1人で行くから……リア充の人に迷惑かかるし……』とか言って、一緒に歩いてくれなかったもん」
「ああ……。え、それおれの真似?」
「付き合ってることも『隠したい』とか言い出しそう」
……質問はナチュラルにスルーされたが、まあ他の人の真似なはずがないのでよしとしよう。
「まあ、それは確実に言ってただろうなあ……」
恥ずかしいとかではなく、単純におれなんかと一緒にいたら市川の印象というか評判というかそういったものを
ぶっちゃっけ、その気持ちは今でもないではない。
というか、本当はきっと、そんなことをおれが言って市川にかえって
まだ、こんな人に付き合ってもらって……という、引け目は残ってる。
「憧れの向こうに、っておれは誓ったはずなんだけどなあ……」
あまり寝てないからだろうか、それともそのことばかりを考えていたからだろうか。
気がつけば、右手をグーパーさせながら、そんな
「もう……私、ちゃんと言ったはずなんだけどなあ」
「ん?」
市川の方を見ると、困ったように、寂しそうに、そっと笑う。
「ねえ、小沼くん
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