第68.52小節目:ミス コンテスト(エントリーNo.2:英里奈)
「たくとくん、
市川の写真を撮って教室に戻ると、
「おお、ちょうど良かった。英里奈さん、今ちょっと時間ある?」
「んー? なんでぇー?」
「空き教室で英里奈さんの撮影したい」
そう言って、手に持ったカメラを
「空き教室で撮影ぃっ!? たくとくん、とっかえひっかえだねぇ……!」
「何言ってんの?」
英里奈さんはピンクベージュのふわふわ髪を
「英里奈ちゃん、ミスコンの撮影だよ。アンケートで選ばれたみたい」
市川が横から苦笑気味に説明してくれた。
すると、英里奈さんは一転して、ニヒヒと笑いながら、
「あぁー、ミスコンかぁー、今年も来ちゃったかぁー。もぉー、しょぉがないなぁー」
何、この一連の流れ。英里奈さんも去年出たんだ。そんで嬉しいの、全然隠せてないからね?
「えりな、あんまり気が進まないけどぉー、早く撮影しよぉかぁー」
「その演技する意味ある?」
おれの
「……はあ、いってらっしゃい」
後ろから市川の呆れたような声が聞こえた。
空き教室に戻るなり、英里奈さんは自分のスマホを鏡がわりに髪を整え始める。
「でも、なんでたくとくんが撮影するのぉ? えりな、自分で撮った方が可愛く撮れる気がするんだけどなぁ」
「それは
「たくとくん失礼ぃ! いや、加工はするけどぉ!」
ぷくーっと頬を膨らませる英里奈さん。加工するんじゃんか。
「まあまあ、とりあえず撮るよ」
なだめながらおれはカメラの設定をする。
「はぁーい、おっけぇだよぉ!」
おれがカメラを構えると、教室の壁を背に、英里奈さんは
あまりにも完成されたスマイルに、
「うーん、なんか……」
「んんー?」
「作り物っぽいんだよなあ」
「つくりものぉ?」
おれのコメントに、英里奈さんが首をかしげる。
画面に表示された英里奈さんのキラキラな写真を見ながら、おれの胸には、市川の写真を撮っていた時同様の、
「いや、英里奈さんの魅力っていうのは、こういうことじゃないとおれは思うんだよ」
「魅力……? っていうかたくとくん、なんか目の色が変わってるぅ……?」
珍しく
「英里奈さんって、もっと普通に性格悪いじゃんか」
「は? なんなの?」
英里奈さんが語尾を伸ばしもせずに
「ああ、性格悪いっていう表現だと違うか」
「もぉー、そぉだよねぇ? いきなりディスられるから何かと思ったよぉ……」
おれが
「すまん。えっと、言い直すと」
適切な言葉はなんだろう、とおれは探して、突き止める。
「
「そこいじぃ……?」
単語が難しかったのかなんなのか、英里奈さんの頭の上には大量のハテナが浮かんだ。
「要するに、英里奈さんは
「本当になんなの?」
本日二度目の語尾伸びない版の英里奈さん。でもおれも謎のトランス状態に入っているので、
「英里奈さんの意地の悪さがもっと出るようにしたいんだ。その方が英里奈さんらしい良さが出る」
そう前置きをしておれはカメラを構えて、
「さあ英里奈さん、おれを
「うわぁ……キモい……」
英里奈さんが顔を引きつらせながら言ってくるのに対して、おれは首を横を振った。全然わかってないなこの人。
「そうじゃないだろ。
「いやぁ、今のはたくとくんに指示されたから言ったわけじゃなくて、本音の感想なんだけどぉ……」
「いや、本音の感想言ってどうすんだよ……」
「感想を吐き出さないと気持ち悪すぎて別のもの吐きそうだよぉ……」
英里奈さんの全身から
「うまいこと言ってる場合じゃないから。
「うへぇー、さらにキモいんだけどぉ……」
英里奈さんは口を開けて舌を出した。
おれはそっとカメラを下ろす。このまま続けていたら英里奈さんが本当になんか吐きそうだ。
うーん、おれのディレクションが悪いんだろうな。
一度、雑談で空気を変える必要がありそうだ。
「ああー……、ていうかさ、微妙に気になってたんだけど」
「んんー?」
「英里奈さんって、なんで時々ネクタイの色違うの?」
「あぁ、これぇ?」
英里奈さんは自分のネクタイをつまんで持ち上げた。
うちの高校は、学年によってネクタイの色が変わるのだが、おれたちが学年指定の青いネクタイをしているのに対し、英里奈さんは時々オレンジ色のネクタイをしてくることがある。
「それ、1年生の色だよね? なに、若く見られたいの?」
そう尋ねると、はぁー……とため息をつかれてしまった。
「たくとくんはたくとくんだなぁ……。
今の1年生の色ってことはって……はっ!
「もしかして、去年の3年生の色……!?」
「そぉゆぅことだねぇー」
なるほど、2個上の先輩か!
少女漫画とかで制服の第二ボタンをもらうみたいな
「えぇっと、英里奈さんって当時、3年生の彼氏とかいたりした……?」
「さぁーて、どぉでしょぉー?」
ニタァーっとした笑みを浮かべ始める。
なんなんだ、この敗北感は……?
なんというか、別に張り合ってるわけでもないんですけど、先輩、というか年上と付き合っていた女子って何をどうしても超えられない壁みたいなものを感じるんですよね。(ありますよね?)
あえて表現するなら、何してても『ああ、そうゆうとこ、(元)カレより子供なんだよねぇー……』とか『経験不足なんだよねぇー……』とか思われてるんじゃないか、みたいな感覚あるんですよね。(ありますよね?)
「んんー? 気になっちゃうのぉー? たくとくんは、えりなのことまで狙ってるのかなぁー?」
おれが謎の敗北感に絶望的な顔をしていると、それが面白いのか英里奈さんが右手をあごに添えて笑っている。
いや、狙ってるかどうかはあんま関係ないというか……はっ!!
おれはその瞬間、カメラのシャッターを切る。
「おお、これだ……!」
画面には、英里奈さんの何かをたくらむような意地悪顔。
「ふぅーん? 見せてぇ?」
英里奈さんが横にピトッとくっついてくるので、そっと離れて、画面だけそちらにかたむけた。
「えぇー、えりな、すぅーっごく嫌な子っぽい」
「いや、これでいいんだって」
「そぉかなぁ……?」
「うん、おれを信じてくれ、これで一位を取ろう」
「そんなことゆって、みんなにそれ言ってるんでしょぉ?」
最後の一言は
「あ、というか」
一応、はっきりさせておかないといけないことが一つだけある。
「えっと、過去は謎のままでいいとして……今は彼氏いないよな?」
「いや、いませんけども」
キョトン顔で返された。
なんで敬語だよと思いながらも、おれは安心する。
「良かった、そこが違ったらまじで悪魔だわ。
おれが笑うと、
「たくとくん、えりなのこと疑ったのぉ?」
と純粋な瞳で首をかしげた。
「いや、そういうところは全然信じてるけど。……すまん、気を悪くしたか?」
「ううん!」
英里奈さんは、えへへ、と笑いながら言う。
「えりなも、たくとくんのこと、信じてるよぉ!」
その時に悪魔の見せた天使の笑顔に、おれは、カメラを構えてなかったことを、ほんの少しだけ後悔するのだった。
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