第2曲目 第20小節目:Tell Me Why
「それじゃね、またあとで!」
吾妻は元気はつらつになって部屋へと戻っていった。
なんとなく、今しがた吾妻と打ち合った手をグーパーしていると、
「ちょっと、小沼先輩! どーゆーことなんですかっ!」
後ろから、小動物的後輩、平良ちゃんに声をかけられた。なんか昨日ぶりなのに久しぶりに感じるな。
「吾妻先輩と仲良くお話しちゃって! ステラちゃんのこと、話してくれたんですか?」
「ああ、それなら昨日の夜に話したけど」
「き、昨日!? むー! ホウレンソウが出来てないですっ! ホウレンソウが出来てない組織はダメになるのですよっ!」
ビシィっとこっちを指差してくる。平良ちゃん、組織論好きだよなあ。
「花火大会の時とか、全然お話してくださるタイミングあったじゃないですかっ! 花火大会、先輩は何をしてたんですか!」
そう問われて、沙子の笑顔が
別に悪いことはしていないと思うのだが、なんだか、改めて何をしていたのかと訊かれると報告しづらいな……。
「は、花火だけど……」
「そんな、電話かけて『今何してる?』って聞いたら『電話してるよ』って答えて『もーわかってるよー!』って答えるバカップルみたいなやりとりはいらないのですよっ!」
平良ちゃんはちゃんと落語家のように左右に首を振り分けながらバカップルとやらを演じてくれた。
……最近どっかの元天才シンガーソングライターとそんなようなやりとりをしたような気がするけど、気のせいだろう。
「先輩がLINEをされていたら簡単に教えていただくことも出来るのですが、されていないのですもんね……」
平良ちゃんがもどかしそうにつぶやく。
「いや、おれ、LINEやってるけど……?」
「え? あれ? そうなのですか?」
平良ちゃんが小動物的に小首をかしげる。
そういえば、昨日の朝の積み込みの時にもそんなようなことを言ってたな。
「ロックオン終わったあと、感動をお伝えしたくて小沼先輩のLINEを探したのですが、ロック部のLINEグループにいらっしゃらないので、同じバンドの天音部長に聞いたのですよっ。そしたら、『小沼くんは私が誘っとくよ!』とおっしゃっていたのです!」
「いや、誘われてないんだけど、なんで……?」
「自分がききたいですっ! 自分は、小沼先輩がLINEをされてないから誘われてないのかと思ってましたけど」
「はあ……」
市川の考えてることがよく分からない。おれのぼっち卒業を食い止めたいのか? なして?
「んんー、まあいいです! LINEお持ちなら交換しましょうっ!」
「お、おう……」
おれは相変わらずLINE交換とやらのやり方が分からないのでスマホを取り出して平良ちゃんに差し出した。
と、同時、平良ちゃんがおれに自分のスマホを差し出す。
え、何? LINEを交換するってスマホ本体を交換することなの……?
「えっ……? なんですかっ? 先輩のスマホ自体はいらないのですけど……」
差し出されたスマホを見ながら平良ちゃんが戸惑っている。いやおれも戸惑ってるわ。
「え、いや、おれも平良ちゃんのスマホはいらないけど……」
2人で首を傾げる。
「えっと、自分は、小沼先輩にお渡ししてLINE交換をやっていただこうかと……」
「おれも、平良ちゃんにお願いしようかと……」
え、もしかして……。
「LINE交換のやり方分からないの?」「LINE交換のやり方ご存知ないのですか?」
……なんてこった。
「え、平良ちゃんってリア充なんじゃないの? 友達100人いますよー的な……」
「リア充だなんて言わないでくださいっ! 高校の友達はステラちゃんしかいませんよっ! 自分が他の人と話しているところを見たことありますかっ!?」
「いや、昨日知り合ったばかりだから普通に見たことないけど……」
平良ちゃんがむなしい逆ギレをしてくる。
「自分は、趣味ネットパトロールの半引きこもりぼっちなのです!」
「ああ、そうなんだ……」
見た目的にめっちゃリア充側の人だと思ってた……。そういえば昨日スタジオでも、自分のこと『
「小沼先輩こそ、あんないかにもリア充さんの美少女の先輩方に囲まれまくってて、それでLINEの交換も出来ないとか、なんなのですか!?」
「いや、いつも相手に渡して登録してもらってるから……」
「何様ですか!? 見た目に反して、
た、たしかに……。いや、本当にやり方が分からないだけなんだけどね……。
「……困りましたね、これじゃ、LINE交換出来ませんね……」
「そうなあ……」
宅録ぼっち2人で頭を抱える。
「まあ、いいです。とりあえず次にお会いするころまでに検索しておきます。検索は得意なのですっ」
「おお、よろしく……」
趣味ネットパトロールらしいもんね。
ネットサーフィンじゃなくてパトロールって言うあたりに闇を感じるな。
「それでそれで、吾妻先輩とお話されて、結局ステラちゃんはなんで合奏に参加出来ないのですか?」
「ああー、それな……」
「『それな』なんてリア充の言葉を使わないでくださいっ!」
平良ちゃんは頬を膨らます。
「え? いや、えーっと、リア充の『それな』は、同意の『それな』だろ? 今のは、『その話な』って意味で使ってる『それな』だから、意味が微妙に違うというか」
「そういうややこしいことはいいのですっ!」
それな!
とはいえ、なんと説明しようか。吾妻には『つばめって子には、「ステラは最終日の発表でピアノを弾くからそれを楽しみに待ってなさい」って伝えといてよ』とか言われてるけど、そのまま伝えると多分平良さんは怒っちゃうだろうな……。
「えーと、まあ、とりあえず、最終日の発表の合奏には参加させるって言ってたよ」
「本当ですかっ!?」
「うん、まあ」
平良ちゃんがキラキラと目を輝かせる。
「本当に星影さんのことを気にしてるんだな、平良ちゃん」
「んー、というか、自分は人の才能をつぶすような人が許せないのです」
そういえば昨日もそれ言ってたな。
やけに
「なんか、きっかけみたいなことがあったのか?」
すると、平良ちゃんは、真面目な顔になる。
「ちょっと、長くなっちゃいますけどいいですか……?」
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