第2曲目 第17小節目:熱帯夜
「恋バナしようずー!」
大富豪も終わり、「んんー……」「ねむぅーい」とか言って沙子と英里奈さんも大人しく自室に戻っていき、部屋に布団を敷き詰めて、電気を消したあと、安藤が大きな声で言った。
同室のチェリーボーイズのことをおれはボーカルの
そりゃそうだ。だって4人バンドだもんね。
ちなみに、ベースの人は
針谷と昆布島はもう寝てる。寝つき良いな、のび太かよ。
「やっぱり合宿といえば恋バナっしょ! な、小沼!」
「そうなあ……」
そうなの? 中学の時はすやすやと眠りこけていたからなあ……。
「さすがノリがいいな!」
「お、おう……」
めんどくさそうな顔を作りながらも、ノリがいいって言われてちょっと喜んでるおれよ……。
「んじゃあ、
「え、俺!?」
安藤が驚く。いやいや、起きてるの3人しかいないんだからそんなに驚くなよ。
「俺かあー……俺は
「みんなってなんだよ……」
多分、この人はこういう
「え、だって、誰に告白されても絶対付き合いたいっしょ! 大天使アマネルは天使かわいい、英里奈姫はひめかわいい、由莉嬢はゆりかわいい、沙子様はこわかわいい。完璧!」
後半ルール変わってません? ゆりかわいいってなんだし。あと沙子をあんま怖がらないであげて。
「……え、あれ、
無言の空気を読んで、まじで戸惑っている安藤。
「……ノーコメント」
ああ、そういう返し、ありなのね。小沼、覚えた!
「まっ、
おれの肩がびくっと跳ねる。
「……まあな」
なんだよ、なんか驚いたよ、なんで驚いたんだよおれってば。
それにしても、2人のなんか分かり合ってる感じ、楽しそうだな。
「んで、小沼は? 好きな女子とかいるんの?」
いるんのって。
こう言う時なんて返せばいいんだ? 男子同士での恋バナなんて初めてだからどうしたらいいかわかんない……。女子との恋バナも英里奈さんとちょっとしたアレしかない。
とりあえず
「……ノーコメント」
「いや、ノーコメントとかねえから!」
ソッコーでツッコまれる。
あ、ないんだ。なんでですか?
「え、えーっと……」
おれがしどろもどろになっていると、
「……コヌマはさ」
「は、はい……?」
なになに、怖いよ……。あとおれコヌマじゃないからね……。
「コヌマは、元気なやつ、好きか?」
「はい?」
いきなり興味持っていただいている……?
「いいから答えろって」
元気なやつ、ねえ……。
「まあ、元気があるのは良いことだと思うけど……」
おれが答えると、
「だよな。じゃ、可愛いやつは?」
「いや、えーっと……?」
質問の意味はわかるけど意図がわからんのだが。
「可愛くないより可愛い方がいいよな?」
「はあ、まあ……」
可愛いとか可愛くないとかは主観だけど……。
「だよなー。クラス委員とかやってると好感度高くね?」
「それは本当にどっちでもいいと思うけど……」
それで好きとか嫌いとか、分かれないだろ。
「……まあ、そうか。でも、やってるかやってないかだとやってる方がいいだろ? ビミョーに」
妙にごり押しして来るなクラス委員。
「うーん、じゃあ、まあ、そうだな……」
推しの羽川はクラス委員長だし、まあそれでいいや。
「だよな!」
ビンゴ! とでも言いたげに嬉しそうにしてる……なんの話?
「そういうやつさ、探せば案外近くにいるんじゃねえの」
「……はい?」
もしかして、こいつ……。
「元気で、可愛くて、クラス委員……英里奈姫みたいな女子だな!」
「ちょ、
「ええ? 俺、ばか?」
……そういうことか。
要するに、まだ、英里奈さんがおれのことを好きだと思ってるこの
『えりなは、健次のことが好きなんだもん!』
さっき、風呂上がりに笑っていた英里奈さんの顔が浮かぶ。
多分、こういう、まっすぐで友達思いのところが好きなんだろうなあ。
「
おれは胸がズキズキと痛むのを感じていた。
「はあ?」
おれは、ふう、と軽くため息をつく。
「……えっと、
「なんだよ?」
「バカっぽく見せてるけど、本当はめちゃくちゃ素直で、めちゃくちゃまっすぐで、あざといようで本当に好きな人には
詰め込みすぎか? 知らんけど。
「……はあ? まあ、いいんじゃねえの……?」
おれは、静かに唇を噛む。
「そういう人、近くにいるんじゃないの、案外」
「ああ……?」
なんていうか。
『えりなは、何をどうしても、健次の特別になるんだ』
ままならないな、色々。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます