総合学科の、普通科には無い高校生活。
三毛猫
第1話 高校受験の行く末。
僕、奥村曲次、中学3年生は悩んでいた。手先足先の感覚を麻痺させる冷たい風と雪に翻弄される12月休日の山形県、ペットの亀は既に冬眠に入っているというのに中学校へ歩を進める男が1人。
僕は担任に呼ばれていた。恐らく
親の勧める進学先は嫌と言っているのに......。
「曲次、いつまで経っても高校を決めねのは先生にも迷惑がかがる、今日ははっきり決めるぞ。お前はどこの高校さ行ぐでえんだ? 」
なまり混じりに父親が聞いてくる。高校選択、この時期の中3生ならば誰もが悩む事だとは思う、けれど僕は他の誰よりも悩んでいると心から言える。
それは中学校3年間、いや義務教育期間全てにおいて僕はぼっちだったからだ。極論高校デビューを果たしたいのだ! 塾に通って、低かった学力を着々と高めつつあった僕を見て親や担任は、家の近くの中堅高校を推していた。しかし、それでは僕の目論む高校デビューが達成出来ない、知り合いだらけである、なので僕は遠くの総合学科の高校を希望していた。
その高校は今の僕の偏差値より大分下のレベルだが、高校デビューをするにはもってこいの環境だと確信している! 何かを得るには何かを捨てる、これ人生の基本! これを積み重ねて学力と引き換えに、友達を失った!
見たところ父親は遠い学校へ行く交通費や新しい環境に馴染めるか等を心配しているようだ。今の苦しさを上手く伝えれば父親も納得してくれるはず。
「お父さん、僕は人間関係のリセットをしたいんだ。確かに僕の希望する高校は通学には不便だし、偏差値は底辺だ。しかし、裏を返せば人間関係のリセットはスムーズに行くし、公立だから学費も安い。更に総合学科は自分で科目や履修項目を選ぶ、つまり自立の精神を養える場所だと僕は思うんだ。総合学科の高校は数少ない、価値はそこにもあると考えるよ」
簡単にだがまとまった考えを言った。しかし父親は眉間にしわを寄せ考え込む仕草をした。僕の父親ながら考える格好は猿に似てるな、昔のあだ名メガネザルだったらしいし......。
それを見かねた担任が思いがけないフォローを入れてくれた。
「曲次君とお父さん、双方の意見や希望は有るとは思いますが、私は曲次君の意思を尊重するべきかと思います。やはり息子さんの人生ですし、親御さんはやりたい事を応援し、背中を押すことが大切だと思います。それに普段の学校生活を見ていても、曲次君の笑っている姿を見た事はありません、人間関係のリセットを目的とするにしても、本人たっての希望である○○高校は最適だと私は考えます。曲次君には中学校でした寂しい思いをバネに、高校で躍進できる力が有ると信じています」
いつもウザイと思っていた担任がまともな事を言っている、そう僕は感じた。自分を擁護してくれる人を好意的に見る、人間の性だな......。今日だけ言わせてもらおう、先生大好き!
僕の
「んだが。んだれば、すがだねなぁ」
父親マジ神だ。この瞬間、この時の父親を尊敬する、それはこの16年間、そして未来永劫を通しても後にも先にも一度きりな気がするけど。
「あ、ありがとうお父さん! テツandトモの赤い方にそっくりで、低学歴なお父さんなら僕や僕の進学する高校に理解が有ると思っていたよ! 」
「赤い方にそっくりは褒め言葉だが!? そして低学歴言うな、俺は合格する人が毎年少ない、上級資格の取得も目指しているんだぞ! 」
父親よ息子は分かっている、その上級資格とやらは目指す人が少ないから合格する人が少ないのであって、合格率自体は驚異の95%だと言うことを。
しかも世間からは取るだけ無駄と言われていることも。
もっと言うと、去年1度落ちているという事実も息子は知っている......。
不合格通知をア○ルトビデオに挟んでいる事も......。
「何はともあれ、曲次君の第1希望は○○高校で決まりましたね。併願高の私立は変更無しで良いかな? 」
場を整理する為か、先生が取りまとめの発言と共に、僕の併願高について聞いてきた。僕の強く(←ここ重要)希望する高校は毎年定員割れだし底辺校だからまず落ちることは無い、なので併願高は眼中に無いので親に選ばせた。
思い入れなど特に無い。
「変更無しでお願いします。」
「お父さん、宜しいですか?」
「はい、問題無いっす」
第1希望の高校は僕が駄々を捏ねて固持、第2希望つまり併願高は両親に一任、恐らく妥当だろう。
僕の受験の面白いところは、第1希望の公立高校よりも、第2希望の私立の方が偏差値が高いと言う稀に見る現象が起こっている事だ。両親が無理やり偏差値の高い高校を選んだ挙げ句のこの結果。
まあ僕も中々の堅物だったけど。輝かしい未来(高校デビュー)の為、頑張るぞ!
そう誓った12月だった。
その後僕は第1希望を無事合格し、晴れて高校生に成ったのだ。その後、想定内のことが必然的に起きてしまうなんてね。
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