お酒を飲むとふわふわしている
私はお酒を飲む。
もう成人していて飲んでも良いということになっている。
灰色のお金を使ってお酒を買う。
昔は見えていたウイスキーの瓶も今は灰色
灰色だけど銘柄によってはいろんな色の瓶に入っていたからお酒の色とかは気にしなくて良い。そう思うことにしていた。
琥珀色。
それでも思い出すお酒の色。
透き通っていて向こう側を覗くと光の屈折で揺らいで見えていた。
私はお酒を飲むとふわふわする。
お酒に弱いからすぐにお酒に飲まれる。
お酒に飲まれてすぐにふにゃふにゃになって、灰色の布団の中でゴロゴロする。
それが心地よくて、こういうのは良くないと分かっているんだけどクネクネと転がりながら布団の温もりを感じているのが好きだった。
お酒を飲む。
灰色にしか見えないお酒も、私の心を違う色にしてくれる気がする。
魔法の水。
そういったら怪しいものと思うだろう。
一種の麻薬のような、幻覚を見せられているんじゃないかと思うかもしれない。
でも違う。
幻覚だったらきっと私の周りに色が溢れている。
どれだけ酔って、ふらふらして、泣きたくなっても私は私。
灰色の世界にいる私は、どれだけ酔っても灰色のまま。
灰色になったお酒は水と見た目が変わらない。
油断すれば水と間違って灰色のお酒を飲んでしまうだろう。
私を灰色から解放してくれるわけじゃないけど、灰色になった私をくしゃくしゃにして私をもっと壊してくれる。
壊されることに安心を感じる。
私は痛みを受けて喜ぶようなマゾヒストでは無いと思っているが、痛みが私の心を癒してくれるのも否定はしない。
痛いのは嫌い。
でも痛いと安心する。
誰かに痛みつけられるのは嫌い。
でも自分で傷つけて痛みを感じると、私はまだ生きていると思う。
自分を鼓舞しているような、自分で自分を貶めて、それで許された気になっている。
誰かに咎められたわけじゃない。
自責の念に駆られているわけでもない。
勝手に自分で自分に罰を与えている。
生きている×。
私は生きている。
生きているから罰を受けている。
灰色の世界は罰ではなく、痛みこそが罰だと感じている。
お酒を飲んでふわふわして、最後に頭が痛くなってもがく。
苦しくて、吐きたくなって、トイレに頭を突っ込んで口の中に指を入れてどれだけ舌の奥を押さえたとしても私は吐けない。
吐けば楽になる。
楽になりたい。
でもそれはダメだから。
私がいる灰色の世界でどれだけふわふわしても、私が苦しいだけで、私が苦しんでいる姿を誰かが知ることは無い。
痛みこそが私の罰で、それから解放されようとすることは許されない。
それが私の作った灰色の世界でのルールのひとつ。
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