第11話 女子力に振り回される。
最近、走る人のことを「ランナー」ではなくて「ジョガー」っていうの知ってました? 俺は知らなかった。だからムカついている。
そもそもマラソンが趣味の部下に「最近ジョギング始めたんだよ」と言ったら、「ジョギング(笑)ランニングのことですね」と、鼻で笑われて訂正された。この時に受けた屈辱は今でも根に持っていて、ジョギングという言葉を耳にする度に部下の嘲笑がフラッシュバックし、その時に傷ついた自尊心が未だに回復せずに悪夢ばかり見る。
そもそもジョギングとランニングの違いは何なのか。調べてみたところ、ウォーキングの延長でゆっくり走るのがジョギングで、さらに息が弾み、速く走るのがランニングらしい。
速度にするとジョギングが7分/km、ランニングが5分/kmだそうである。ちなみに箱根駅伝クラスが3分/kmで、私を「ジョギング(笑)」と鼻で笑った部下は、フルマラソンでサブスリー(3時間以内で走ること)を達成する鼻持ちならない奴である。
ジョギングがジョガー、ランニングがランナーだとすると、部下は箱根駅伝クラスなのでハコナーである。ハコナーなんて言葉あるかわからないが、ダッサい言葉なのであればいいと思います。というわけでジョガーでもランナーでもないハコナーな部下は、マラソンカーストの最下層の私を「ジョギング(笑)」と鼻で笑ったのです。「ジョギング(笑)」
そんな部下ハコナーいわく、ジョギングとランニングの違いは一概に速度だけで決めるわけではなく、速いペースで走っていても、息が苦しくならずにお喋りしながら楽しく走ることができたら、それはジョギングと言えるかもしれませんねと、これまた箱根山頂からの上から目線で言ってくる。何なんだ走りながら喋れるか否かって。だったら合コンなどの走ってない状態で喋れないお前は何なんだ。
そうだ。私はハコナーに怒っているのではなかった。ジョガーという呼称に怒っているのだった。
これまでの情報を整理すると、ジョギングはダサくて、ジョガーはイケてる。ランニングはイケてて、ランナーはダサい。つまり「ランニングをするジョガー」が一番イケてるということになる。矛盾してるなあ。気持ち悪いなあ。
ということは「ジョギングをするランナー」がダサい組み合わせで、それを上回る最上級にダサい組み合わせが「合コンで黙りこくるハコナー」ということはわかった。
だいたいジョガーって呼称はいつ決まったのだ。私は「ホットケーキ」が「パンケーキ」に、「ゼリー」が「ジュレ」に、「バー」が「バル」に変わってしまったことも認可していない。なんでも勝手に変わりやがって。
新語が知らぬ間に世の中に浸透していた屈辱、時代に乗り遅れた悔しさは、筆舌に尽くしがたいものがある。なぜこうやって私の知らないところでいろんな言葉がこうも鬱陶しい言葉に異変しているのか。
私は「女子力」が諸悪の根元だと思っている。
あらゆるものに「女子力」を掛けることで、言葉は奥ゆかしさやわびさびを失い、刹那的、表面的な輝きをキラキラ発し始める。
ホットケーキ×女子力=パンケーキ
ゼリー×女子力=ジュレ
バー×女子力=バル
だってそうでしょう。パンケーキもジュレもバルも「女子力」という言葉の登場と時を同じくして発生してるでしょう。アイスクリームだってそうでしょう。「女子力」を掛けるとジェラートになってしまうでしょう。
このように、これら全て女性の世界で展開されるものだから、男性はいつも時代に取り残された感覚を抱いてしまうのだ。
最近では、お洒落なランニングウェアを着て、美しくスタイリッシュに走る女性のことを、美女+ジョガーで「美ジョガー」というらしい。目も当てられないほどの恥ずかしい造語である。
こうなったら私も対抗して、お洒落なランニングウェアを着て、あらゆる料理にタイの調味料をかける男性のことを、美男+ナンプラーで「美ナンプラー」と呼ぶことにしよう。
ちなみに美ナンプラーかつハコナーな部下は、30代独身で恋人募集中である。出会いがないと嘆いているので、この時代、出会い系アプリなどを活用すればと提案したが、この界隈もすでに「女子力」の毒牙にかかっていて、「出会い系アプリ」は無惨にも「マッチングアプリ」というキラキラした名前に変えられていたのであった。
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