猫光線(ネコビーム)

化野生姜

第1話「右手からビームが出た」

俺、ふしま。

太ったしましま猫だから略して「ふしま」と呼ばれている。


どれくらい太っているかというと飼い主で小学一年生の

原導げんどうヒロムが俺を持つことができないくらいに太っている。


持った瞬間に、余った俺の下半身がウニョンと伸びて足が地面に着くほど。

みっともないたらありゃしない。


だからこそ、ダイエットも兼ねて

俺は今日も日課のパトロールに出かけていた。


なんでもない俺の住む町、娯楽町の朝。

ポカポカと日の当たる塀の上を四つ足で歩く。


コンクリートのゴツゴツは気持ち良く俺の肉球を刺激し、

家々の咲く花の香りが俺の鼻先がヒクヒクさせる。


『…隕石落下の予想地点が発表されました。場所は関東北部の娯楽町で…』


…ううーん?なんだか空気が騒がしい。


窓越しの鈴木さん一家はみんな呆然とした顔でテレビを眺めていて、

旦那の亮治さんは卵かけ御飯を完全に膝に落としている。


膝に飯食わして何が楽しいのか俺はわからないが、

ともかく次の家の塀へと飛び移る。


その瞬間、ドタドタっとその隣の須藤さん一家が外に出てくる。

みんな防空頭巾にリュックサック。


奥さんが大型のワゴンカーを出し、

旦那がその中に手当たり次第に物を詰め込む。


時計にテレビにテントにスピーカーにベビーカーに物干し竿に、

最後に介護ベッドの爺さんを縄で車の天井にくくりつけると、

一家を乗せた車は颯爽と街を駆け抜けていった。


なんのこっちゃいと上を見て、俺は気づく。


そう、その時に気付いたのだ。

巨大な目の前の岩の塊を。

この娯楽町に迫る落下してくる隕石を。


パニックになった人間の群れが塀の横をかけていく。

叫ぶ男、逃げる女、ぶつかる自動車。


その向こうには岩の塊。

直径十メートル以上の隕石が俺に向かって迫ってくる。


びっくりした俺はとっさに後ろ足で立ち上がり…


その時、なんでそうなったのかはわからない。


ともかく、俺の右手から光が出た。


光の筋。一本の矢のような光。

それは隕石のど真ん中に直撃し…


ちゅどーん


いや、なんかそんな音がしたかもしれない。

ともかく巨大な岩は木っ端微塵になった。

一瞬で、なんの前置きもなく。


砕け、壊れ、細かい破片となって、隕石は町に降り注ぐ。


その光景を人はぽかんと見つめていた。

多分、俺もぽかんと見ていたのだろう。


何しろ俺は上げた右足もそのままに、

これ以上ないほど長いあいだ、後ろ足で立ち尽くしていたのだから…


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