第24話 その頃のレナント(アレシア視点)
「アレシアちゃん、イリヤさんって、まだだよね~?」
イサシムの大樹というDランク冒険者パーティーのメンバー、ラウレスさん。青い髪をした弓使いだ。
私が露店を広げたら、すぐにどこからともなくやって来て、ため息をついた。この人は本当にイリヤさん好きだなあ……。ていうより、女性全般が好きな気がする。他の露店の女性にも声を掛けていた。自分より年上っぽい人限定で。イサシムの人たちは、二十歳かその前くらいみたい。
「まだに決まってますよ。エルフの森からドルゴまで行く予定みたいだったでしょ」
「ラウレス、諦めなさい。もう出発するからね!」
「……あまりアレシアを困らせるな」
旅の準備をした他のメンバーもやってきた。リーダーよりもしっかりした治癒師の女性レーニさん、一番大人っぽい重装剣士ルーロフさん。以前より日焼けしたみたい。
「みなさん、お仕事ですか?」
「そうよ、アレシアちゃん。討伐依頼を受けたの。数日で戻るわ」
魔法使いのエスメさんは、今日は木で出来た杖を持っている。
「一人じゃ採取に行くなよ、危ないから」
「洞窟のグリフォンは、結局守備隊のやつらが討伐したみたいだけどな。一部の冒険者も依頼で付いてったってさ」
心配してくれたのは、リーダーで赤髪のレオンさん。グリフォンについて教えてくれたラウレスさんだけど、ちょっと残念そう。レオンさんもだけど、グリフォンを倒したがってたからなあ……。
でも、たくさん居たみたいだから行かなくて良かったかもね。
イリヤさんの中級ポーションが入ったら取り置きしておくと約束して、五人を見送った。
妹のキアラも寂しがっているけど、お仕事だから仕方ない。
露店は順調、商売第一よ!
それからいくつか商品が売れて、良かったと一息ついた時だった。
「……こんにちは。アレから問題は起きないか?」
きりっとした顔立ちの、素敵な騎士で街の守備隊長、ジークハルト様だ。金茶色の髪に、エメラルド色の瞳がとてもキレイ。
「大丈夫です。心配して下さって、ありがとうございます!」
「こんにちは! 私は妹のキアラです。おかげさまでたくさん売れてます!」
ジークハルト様は微笑んで私と妹を見た。
キアラったらどんなタイミングで言ってるのよ、恥ずかしい。
「では、私も何か頂こうかな? このポーションは……」
「あ、それはこの前一緒に居た、イリヤさんが作りました。この薬と、魔法付与したアミュレットもです」
「……なるほど、なかなか立派な魔法アイテムを作るんだね」
一つ一つ、真剣な瞳でアイテムを見ている。選んでるのかな?
「彼女とは少し話したけど、魔法の素質があるようだね。一緒に居た悪魔については何か知っているかな?」
「そうなんです! イリヤさんは上品で魔法もすごいし、ベリアルさんはとっても優雅で強くて、素敵な悪魔なんですよ!」
「うん、この前の火、すごかったね。ベリアルさん、あんなこと出来るんだ!」
ジークハルト様は私たちの話を笑顔で聞いてくれてる。
そしてイリヤさんのアイテムをいくつか買ってくれた。
「ところで、その彼女はどこへ行ったか知ってるかい?」
買った品を受け取りながら、ジークハルト様が訊ねてきた。
「エルフの森です。ドルゴの街の魔法工房ものぞきたいって言ってました」
「では、しばらくは戻らないね」
「ん~どうでしょう? ワイバーンで飛んでいくんだろうし……」
「ワイバーン!?」
さすがの守備隊長でも驚くみたい! ワイバーンに乗る女性なんて、聞いたことないもの!
「はい、ワイバーンに乗るんです! あんなに可憐な人なのに、すごくカッコイイの!」
「イリヤお姉ちゃん、ダークウルフを簡単にやっつけてくれたし」
それにしても、そんなにイリヤさんのことが気になるなんて、もしかして……!? あ、でも新商品が欲しいのかも知れないな。イサシムの皆も楽しみにしてるみたいだし。他にもチラホラ、イリヤさんの商品目当てのお客さんが増えてきたんだ。
ジークハルト様は、なるほど、ありがとうと言って去って行った。
そのあと商人のビナールさんが来たけど、やっぱりイリヤさんとベリアルさんについて、ジークハルト様に聞かれたみたい。
「俺は見てないけど……ここで乱闘があったんだろ? 守備隊長が気にするのは当然だろうな」
そう言いながら、露店に並んでいる商品に目を配らせた。
「そういえば、魔法使いのエスメさんも、イリヤさんの魔法に興味津々って感じでした」
「だろうな。あんな簡単に魔法付与なんてしちまうし、話からしても魔法もなかなかの腕なんじゃないのか?」
ビナールさんはアミュレットの説明を読んで、一つずつじっくり眺めている。
「彼女、もっと色々付与とかできそうだよな!俺の店にも卸してもらおう……!」
何かつけて欲しい付属効果があるみたい。
ビナールさんが居なくなった後に話しかけてきたのは、職人さんっぽい髭のドワーフ。
「よお嬢ちゃん、あんたがアレシアって娘かい?」
「はい、そうですけど……」
私を知っているんですかと尋ねると、二カッと笑顔を見せる。
「おうよ、クレマンの……、とと、クレマン・ビナールってヤツに聞いたんだよ。このかわいい嬢ちゃんの露店に、腕のいい魔法アイテム職人が居るってな」
「それならイリヤさんですね。今は出掛けてます」
「なんだ出掛けてんのか。いつ頃戻る?」
今日はみんなイリヤさんの事を聞くなあ。
どのくらいかかるか、もっとちゃんと確認しておけば良かったかもだけど、行った事ない場所だもんね。本人にも解らないか。
「エルフの森からラジスラフ魔法工房に行くんで、もう何日か戻らないかもです」
「そりゃ大丈夫かよ! 最近も盗賊どもの大捕物があったって、冒険者がさっき言ってたぜ!」
「そうなの!? 怖いところなんですね…」
そういえばイサシムの皆も、盗賊が出て危ないから状況を知ってる現地の冒険者を雇った方がいいって、教えてくれた。イリヤさんは雇ったのかな? それとも、やっぱりベリアルさんと二人で歩いてたのかな。
盗賊ってどのくらいの人数がいるのか解からないけど、きっとたくさんだよね。さすがに不安になる。
「なんでも、まぬけな事に悪魔と契約してるヤツを攫っちまったらしくて、連れ去られた奴らは無事だったが、盗賊と根城は壊滅状態だったって話だ。どこまでどうかは知らねえけどよ」
……あ、心配する必要なかったかも。壊滅ってどういう事だろ……
「……それ……、もしかしてイリヤさんかも……」
「はあ!??」
ドワーフのおじさんはビックリして言葉も出ない感じだった。
本人が帰ってきたら、これがイリヤさんの事なのか確認しよう……
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