四人兄妹が次々と失踪する話(全5話)

ヒガタニ

第1話

昨日、兄ちゃんがいなくなった。


 一郎兄ちゃんはぼく達、四人きょうだいの中で一番情けなかった。

「この家はおかしい」

「ねえ、ここから出して」

 お父さんにそんな事ばかり言っていた。そしてしばらくして、真っ黒の窓の向こうから、何か重い音が聞えて来た。

 そしたら、お母さんが帰ってきた。お父さんがお母さんを見て言う。

「なあ、一郎が家から出たいって」

 そう言ったらお母さん、顔が怖くなった。そうして一郎兄ちゃんの髪の毛を掴むと、別の部屋に引きずって行った。

 その部屋からは、兄ちゃんの凄い叫び声がずっと聞こえて来た。

 四美子がそれを聞いて泣いている。

 二佳姉ちゃんが、お父さんに聞いた。

「ねえ、お母さんは何をしてるの」

「一郎を家から出してやるための準備をしてるんだ」

 お父さんは、こっそりとぼく達三人に行った。

 にいちゃんの叫びは、時計の短い針が11だった時に始まって、12になった時に弱くなっていった。そして13になった時には、声が聞こえなくなる。

「兄ちゃん、この家から出てっちゃったみたいだな。

 これからこの家で暮らすのは、俺とお母さん。そして二佳と三葉と四美だけだ」

 お父さんは悲し気に笑った。そしてぼくの頭に手を置いた。

「これから男の子は三葉ひとりだけだが、大丈夫か?」

 ぼくは大きく頷いた。


 一郎兄ちゃんが居なくなって数日が経った。そして家の中から、お母さんもお父さんも、外に出かけて行ってしまったある日のことだ。

「にいちゃん、この部屋入れるよ」

 四美子が、今まで開けなかったドアを指さして言う。

「何ばかな事を言っているんだ。窓や隠し部屋のドアを開けちゃ駄目、危ないって、母さんが言ってたじゃないか」

 ぼくは怒った。なんて馬鹿なことをするんだろう、四美子は。それで四美子だけが怒られて家を出されるのなら構わない。でも、ぼくまで巻き込まれたら最悪だ。

「入るべきだわ」

 二佳姉ちゃんが言った。ぼくは目を丸くした。

「なんで?」

「一郎兄ちゃんが見つかるかも」

 無表情で二佳姉ちゃんは言うと、迷わず部屋の中に入っていった。

 二佳姉ちゃんが言うのならいいだろう。一番ぼく達の中で冷静で、かっこいいから。そう考え、ぼくも部屋に入った。。

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