男の娘の決意 ヴァレンタイン編
河過沙和
プロローグ
昔から服飾デザイナーであった母は僕に女の子の服を着せ楽しんだ。中学に上がるころまで続いたその習慣は僕の性癖をゆがめるには十分な期間と技術をともなっていた。結果として高校に上がった今も女装とそのための色々をやめられずにいた。
その日も自慢の女装で趣味のウィンドウショッピングを楽しんでいた。道に沿って立ち並ぶ色とりどりで様々な店を見て回るのは楽しくまた街ゆく人々が僕を見てその可愛さに向ける視線が密やかな快感を感じさせることもあって習慣と化していた。
「なぁ、そこの娘かわいいね、俺とお茶しない?」
「結構です」
なんぱされるのは初めてではなかった。強固な態度をとり続け、万が一には叫んで助けを求める対処法は知っていた。それに女の子と間違えられて声を掛けられること自体はうれしくもあったのだ。だが、女装した男であることがばれないことが前提であり見破られることは想定していなかった。
「そんな強気に出ていいのか?女装趣味の変態さん」
「ッ…!」
こいつそれが分かっていてわざと…!
「助けを呼ぶのはいいがこんな大勢の人の前でばらされたくはないだろう?わかったら俺と来い」
「あぁ…」
もう駄目だと思った。こんな大勢の前でばらされて嫌悪の視線で見られることには耐えきれなかった。自分が犠牲になればなにもない、選択の余地はなかった。そう思った時思わぬ助けが入ったのだ。
「おい、おっさん。彼女困ってるだろう」
声を掛けられた方には見慣れた顔があった。中学に上がってからぐんぐんと伸びた180センチ近い身長、父親譲りの堅気には見えないほどいかつい顔。部活で鍛えられた細身の筋肉。長年連れ添っている幼馴染の姿がそこにはあった。
「ちっ、彼氏持ちかよ」
睨まれた男は恐れおののいた表情を浮かべて去っていた。彼氏…?
「あんた、大丈夫か?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「よかった。じゃあ俺はこれで今後は気を付けることだ」
彼 斎藤 一龍去ったあと胸のどきどきが止まなかった。隣で長く彼を見てきて感じていたが気づかない振りをしてきた感情それが抑えきれないようになっていた。
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