バレンタインに起きたら18時だった件
浮椎吾
第0話 バレンタイン前夜
※以下、「毎日ちょっとずつ進めろよ」の言葉は厳禁とする。
2月13日。つまるところバレンタイン前夜。
普通の女子大生・月代彌香菜美(つくよみ かなみ)は焦っていた。
スマホゲーム「叛逆の翼・Dフェニックス-ONLINE-」の期間限定イベント。そのほとんどをこなせていない現実に彼女は打ち震えていたのである。
「いやいやいやいや。私は悪くないし?毎日ログインはしてレイドボス殴ってたし?
というか期間限定イベント中に緊急メンテ入れて、6時間も時間をかけちゃう方がおかしくない?イベント期間延長とか普通しない?ねーねーねー?」
というのが本人の弁であった。ついでにゲーム運営にメッセージも送った。
だが彼女他数名の声も空しく、イベント日程は一切変更されないまま「2月14日9時のメンテナンスをもってイベントは終了となります」なる最終通告が先ほど公式ホームページに掲載されたのであった。
ネットの匿名掲示板で彼女と意見を同じくする者たちと意気投合し、運営に対する愚痴りトークに花咲かせること2時間強。お腹が空いたのでコンビニで弁当を買って食事を歩きながら済ませ、家に戻ってパソコンとエアコンの電源をつけてベッドに寝転がった彼女は、いつものようにスマホのホーム画面から「叛逆の翼・Dフェニックス-ONLINE-」のアイコンを選んでゲームを起動した。
ゲーム画面を数回タッチし、期間限定イベントの進捗率を彼女は確認する。特に具体的な数字が出るわけではないが、ざっと計算したところ53%といったところか。
――諦めるのも手、か。
彼女は大きい深呼吸の後に目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。
諦めた……わけではないことを、その瞳の中で揺れる強固な意志が示している。
――やり終えるなら、これは久しぶりにヤバい奴だな?
月代彌香菜美。夏休みの宿題はギリギリまで貯めておくタイプの女。
その口角は困難を前にして鋭く上がり、心臓は激しく高鳴って彼女にやる気をもたらした。
ベッドの上でゴロゴロと左右に転がりながら、アドレナリンが巡り始めた脳内で漂う計算機を高稼働させていく。
時間を確認すれば、21時を丁度過ぎたところ。
14日間あったイベント期間も、残すところ12時間弱となっていた。
――中途半端な睡眠はデッドウェイトになるな。
睡眠時間を即座に切り捨て、翌日9時までのスケジュールを組み直していく。
何度も同じような修羅場を潜り抜けてきた彼女にとって、そこから先は手慣れたものだ。
ベッドから起き上がるとパソコンの前に座り、インターネットからイベントの攻略情報を取得していく。イベント最終日ということもあり、有志たちのまとめあげたそれは完璧なものに近い。ブラウザ上で10数個もタブを開けば、必要十分な情報は全てが出揃っていた。
30分ほど息抜きに新進Vtuberの動画を見たあと我に返り、彼女はスマホの画面を見て不敵に笑った。
追い込まれないとやらない女、月代彌香菜美。
彼女はその後、徹夜で期間限定イベントを能率的にこなしていき、イベント終了2分前に無事達成率100%を達成する。
ゲームが予定通りメンテナンスに入ったことを確認すると、彼女はベッドの上までなんとか移動を果たし、そのままズゴッと頭を枕に落として意識を閉ざした。
その寝顔は、とても安らかだった。
他のゲームの期間限定イベントへの対応で前日も徹夜したこともあってか。
その寝顔は、とてもとても安らかだった。
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