【一時停止Ⅱ】

 レコードを止めた。

 外は暗い。

 月明かりが部屋に差し込んでいる。

 俺は急いで燭台に火を灯す。

 王子の頬に触れてみる。

 冷たい。

 まるで死んでいるかのようだ。

 どんな夢を見ているのだろう。

 いや、夢を見ているのだろうか?

 永い千年の夢。

 それは愉しいのだろうか。

 それとも辛いのだろうか。

「ベリアル」

 無駄だと分かっていつつ、呼びかけた。

 やはり王子は初めから狂っていたわけではなかった。

 家族を手にかけ、自害しようとしたときもちゃんと正気を保っていた。

 本当は憎かったんだよな?

 妹たちからは毒を盛られた。

 母親からは見捨てられた。

 父親からは自尊心を奪われ、身体を弄ばれ続けた。

 けれど王子は彼らを愛そうと努力をし続けた。

 それ以外に術も、道もなく。

 結果として心と身体だけがどんどん擦り減っていった。

 王子へ無償の愛を強いる権利を持つ者など存在しないのに。

 負の感情を全て心の奥底へ押し込めて。

 愛する努力ばかりを必死に続けて。

 そうでなければ己を保てなかった、そうだろう?

 そしてその結果こそが、王子を取り返しのつかない結末へと導いてしまった。

 とうとう王子の心は壊れてしまった。

 俺は寝台の上に散らばる金色の薔薇を払い退けた。

 王子の傍らにごろりと横になってその顔を眺める。

 その顔に、最後に見た王子の表情かおを重ねると胸が軋んだ。

 なんて醜く、悲しい笑顔だったのだろう。

 悪魔め。

 お前が殺してやれば良かったのに。

 王子はお前のことすら心から愛していたと言うのに!

 俺は目を閉じて休止モードに切り替える。

 レコードはまだ続きを残している。

 けれど今日はもう良い。

 もう沢山だ。

 今はただ、王子の傍で共に眠りたかった。

 例え互いの身体が冷たかったとしても。

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