EP38 堕天使ベリアル
「話の続きに戻るよ」
ランベールは一同を見回した。一瞬和やかなムードになってしまった空気が引き締まる。
「ルドラ樣は数名の従者を洞窟の外に待機させて中に入っていったんだ。アジト内には、黒魔道のヴィクトーと魔族のバルバトスがいた」
「え。覗いたの?」
リアムが驚いてたずねた。ランベールは被りを振るう。
「違う。ルドラ樣に盗聴器をしかけた」
盗聴常習犯のように罪悪感のない態度だ。
リアムは目を輝かせた。
「ヴィクトーとバルバトスの行方を探す手間がはぶけた!ありがとう!」
「別に君のためにやったんじゃないけどね……」
カディルはそれにはかまわず真剣なまなざしで考え込む。
「ーー……やはり、ヴィクトーは生きていた……。そしてバルバトスとも繋がっていた。それは、つまり」
カディルの視線を受け止めてランベールが頷く。
「そう。やっぱりバルバトスを召喚したのはヴィクトーだったのさ。会話の内容からしても間違いない」
カディルは深刻に頷く。
「ルドラ王子がリッカルド王子の殺害を企てているなら、魔道士のヴィクトーだけでも充分ことは足りるはずですよね……?わざわざ魔族のバルバトスを召喚した理由は分かったのですか?」
「……ああ、それだけど」
ランベールとフェリクスは言いにくそうに顔を見合わせた。二人の態度にアレクスが不審な顔をした。
「なんだ?二人してそんなに言いにくいことなのか」
「……いや」
ランベールは首を横に振って澄んだ瞳に静かな陰を落とした。悲しすぎる真実を口にするのはためらいが生まれてしまう。
「ランベール……?」
カディルは不安げに見つめる。不穏な空気が部屋を包み、この場に集う者の胸に広がっていく。
ランベールはやがて口を開いた。
「ヴィクトーにはもうあまり余力がない様子だったよ。やはり十年前に受けた傷が命を削っていると予想できる」
「ふん、虫の息か」
「今すぐってわけじゃないだろうけど、長くはないかもね。だからヴィクトーは残る力を注いでバルバトスを召喚したのさ」
「……?なんのためです?リッカルド王子を殺害するためですか」
ランベールは立ち上がって腕組みをしながら窓辺に立った。窓に映る彼の顔は厳しい。
「それもある。でも狙いはそれだけじゃなかった」
「それだけじゃない、とは?」
カディルの問いにランベールは確信を得ているかのような口ぶりで言い切った。
「バルバトスに、ある者を召喚させるためだ」
「!」
カディルは思わず椅子から立ち上がった。ヴィクトーに魔族を召喚させて、召喚した魔族にまた何者かを召喚させるというのか。
「それは……一体だれを……?」
「魔族じゃないと召喚できない者と言ったら?」
「魔族じゃないと、召喚できない……」
カディルはハッとした。
魔道士と魔族は類似したエネルギーの属性だから呼応する。ならば魔族と呼応するのは。
「天使ーーですか?バルバトスがフィラを召喚したというのですか?」
「なんであんな娘を?」
アレクスが眉を寄せた。ランベールは窓から振り返ると首を横にふる。
「カディル、落ち着いて。召喚されたのはフィラじゃない。正確に言うと、魔族は天使を召喚できない。魔族は天使に触れると火傷するらしいから」
カディルはフィラの汚名が晴れてホッとした。バルバトスの仲間だったら大変なことだった。
「でも、ではだれが召喚されたのですか」
ランベールはため息をついた。
憂鬱そうに窓に背を預ける。
「ベリアル。堕天使だよ」
「堕天使?堕天使って、たしか元は天使じゃなかったっけ?悪いことをして、魔界に追放されちゃった天使をそう呼ぶんだよね」
リアムの回答にランベールは肩をすくめた。
「もとは清らかな心を持つ天使にも、稀に心を悪に占拠される者がいる。自然と天界で暮らせない身体になって魔界に引き寄せられていく。ーーベリアル。元は皇族の長男だよ」
「ーーえ」
カディルの瞳には驚きの色がうつった。
ランベールはその視線を受け止めて目で頷いた。
「そう。ベリアルはフィラの実兄だ」
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