EP19 魔力
「あ〜!スッキリ綺麗な空気!やっぱオレの魔法最高っしょ!」
アイシャは両手を上げて叫んだ。清々しい!!
王宮に立ち込めていた悪気は今はもう微塵も感じない。フェリクスが持ち込んだ大量のアイアゲート(天眼石)の護りの力をアイシャの魔法で強化した。その石で作ったブレスレットを王宮の使用人全員に配り終わると、ブワッと清い力が悪気を退けた。
「ご苦労だったな」
「コレ、楽しみにしてるよん♫」
アイシャは親指と人差し指を丸くして「金」サインをウィンク付きでリッカルドに見せつける。リッカルドは「うへぇ」と気持ち悪そうに舌を出した。
「やめろ気持ち悪い!」
「美少女からのサービスだ」
「いらん」
「つまらんのぅ」
アイシャはつまらなそうに口をとがらせたが、すぐにニヤリとした。
「まあいい。リッカルド、カディルを貸してもらうぞ!」
「お、行くのか?」
白けた顔で頬杖をついていたリッカルドだが興味を引かれて顔を上げた。
「気分がいいからな。今のうちに天使とやらの素質を見定めておこうと思ってな」
「それはいい。カディルを呼ばせよう」
(お前の機嫌が良い時なんてほとんどないからな)
リッカルドはカディルを呼び出し、ニコニコと二人を送り出した。
でも少し羨ましい。。
「私も今一度フィラに逢いたくなってしまったなぁ」
彼女の顔を思い出してリッカルドは少し笑うと切ないため息をついてしまった。
「ここがお前の屋敷だな」
馬車に揺られてカディルの屋敷に着いたアイシャは高飛車な態度で玄関ホールに立った。カディルは出迎えたロランと侍女に挨拶を済ませてアイシャに笑顔を向けた。
「早速来てくださって助かりますよ。さぁこちらです」
カディルは先に立ってアイシャを案内する。
「さすがに青龍のにおいがプンプンするな」
「それってどんなにおいです?」
「うーん。水と空のにおいだな」
「???ーーーはぁ?」
カディルはかしげながら歩いていく。
色とりどりの花が咲く庭を通りすがりに眺めてアイシャは春を感じた。
王宮の地下に作らせた暗い自室に毎日篭っているせいだろう。
「はい、着きました。こちらですよ」
カディルが扉をノックすると中からフィラの侍女が顔を出して二人を招き入れた。
室内に入ると、フィラが深々と頭を下げた。
「初めまして。フィラです。私の為にご足労いただいてしまってすいません」
「ーーーああ。アイシャだ。よろしく」
こりゃあ美人だ。とアイシャは思った。
こんなのとひとつ屋根の下で『普通』に暮らせるのは『カディルだから』だとアイシャはカディルに微妙な視線を浴びせる。
「?」
カディルは不思議そうだ。
まぁいい、そんなことは!アイシャはフィラに近づいて赤い瞳を間近に覗き込んだ。鋭い金の瞳に射抜かれてフィラは少しひるんだ。
フィラの奥深く、探るようにアイシャは目を離さない。キイィィィィーーン…と超音波のような高周波音が部屋を包んだ。
フィラは自分の中に他人が侵入してくるのを生々しく感じていた。自分も行ったことがないほどの心の奥。もう少しで深層心理に届きそうな処までーーーー
けれどそこで突如バチンッと破裂音がしてアイシャが舌打ちした。フィラもハッとする。静電気が目の前で弾けるような感覚だった。
「ーーーアイシャ?」
静かに見守っていたカディルがアイシャをうかがう。
「ダメだな。もう少しってとこまで行けたけど弾かれちまった」
「ーー…それは、私にはやはり魔力がないということでしょうか?」
心配そうにたずねるフィラにアイシャはNONO!と人差し指を振った。
「ある。お前には巨大な魔力が」
フィラは口を手で押さえて驚愕した。
「ホントですか!!!?」
アイシャは「うむ」と頷く。けれどその顔は難しい問題を前にした受験生のように歪められている。
フィラは歓喜したいがそうもできない状況に戸惑った。
「あの…?」
「お前の魔力は巨大な火山のマグマのようにグツグツと煮えたぎっている。ーー…しかしフィールドが何層にも重なって精神の奥深くに閉ざされてしまっているのだ」
「!?」
「封印されているというほうが良いな」
「そんな…」
フィラは愕然とした。
「巨大な火山のマグマ……そして封印ーー…」
カディルは厳しい顔で呟く。
「なんとかそれを解く手はないのでしょうか?」
カディルの問いかけにアイシャはお手上げの手ぶりをした。
「でも」アイシャの金の目が自信ありげに光った。
「オレも長く生きてきたがこんな桁外れの魔力は初めて見た。フィラ、お前は本物のゼロの能力を持っているよ。このアイシャ様が認めてやる!」
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