EP14 安堵と怒り



カディルとアレクスは息を切らして部屋に飛び込んできた。広い王宮をずっと走ってきたのだろう。


「フィラ!リアム!」


うずくまっているフィラにカディルが駆け寄った。リアムはフィラの傍らに膝をついたまま厳しい表情でアレクスとカディルを見つめた。


「大丈夫ですか…!怪我はありませんか?」


「カディル様…!」


カディルの姿を見てフィラは安堵したように涙を拭った。


「フィラ……」


カディルは心から安堵したように目を閉じてため息をついた。


「リアム…。フィラを救い出してくれて本当にありがとうございました」


立ち上がったリアムは首を横に振った。


「いや、当然のことをしたまでだよ。…それより急ぎで話したいことがあるんだ」


ただならぬリアムの様子にアレクスが眉間にしわを寄せる。


「何かあったのか?」


「ーーうん。でも、王子とランベールもいたほうがいい。謁見の間はどうなったの?」


「謁見の間はーー…」


言いづらそうに言葉を濁すカディルを見てリアムは察したようだ。


「どこでもいいから至急みんなを集めて。すぐに話し合わなければいけないから」









一時間後。

王子と四人のディユ、フィラと調査本部のフェリクスが大広間に集まっていた。


「人払いはしてある?」


リアムが聞くとランベールが頷いた。


「中央宮の入口には傭兵がいるけどね」


リアムは頷く。


「今はここにいる人以外信じられない。今から俺が話すことを聞いてほしい」


リアムはあの部屋で起きた出来事を詳しく話した。全員の空気がピンと張りつめていく。


話を聞き終えて、カディルが愕然とした声で「なんということでしょう…」と呟いたきり、しばらく沈黙が続いたが、最初に口を開いたのはリッカルドだった。


「ふむ……。フィラを見つけたとその声は言ったのだな?」


「はい。たしかにそう言いました」


ランベールは俯いて何か考え込んでいたが顔を上げてフィラをみた。


「フィラはその声に心当たりはないのかい?」


「いいえ…。まったく」


「ーー何故、今日なんだ?フィラはこの国に来てひと月以上も経っている。カディルの屋敷では何も変わったことはなかったんだろう?」


顎に手を当てながら疑問を口にしたのはアレクスだ。一人椅子に座らずみんなの周りを衛星のように歩いている。


「…ええ。何もありませんでしたよ」


答えてカディルはハッとした。


まさかーー


「私の屋敷から出たからーーでしょうか。フィラはずっと私の屋敷にいましたから見つからずに済んでいたのかもしれません」


「…あ。そうか…!」


リアムが手をポン!と叩いた。

リッカルドも頷く。


「青龍の加護を受けているカディルの屋敷は結界に守られているからな。フィラが時空の亀裂からカディルの屋敷の敷地内に入ることができたのは、聖なる存在だからだと考えれば納得がいく」


「悪しき者は近寄れない場所だったということか…」


アレクスも得心した。


「しかし何故フィラを?伝説の天使だと思いこんでいるのか?」


リッカルドが疑問を口にする。アレクスは歩く速度を変えずに発言した。


「伝説の天使の特殊能力、ゼロを邪魔に思う者がフィラの命を狙ったとすれば納得がいきます。またいつ攻撃を仕掛けてくるかわかりませんね」


「相手は人間を操る能力を持っている…」


リッカルドは右の手のひらを広げ、悔しそうに握りしめた。先程処刑した兵のことを思ったのだろう。


カディルはその様子を見て言い知れぬ怒りが湧いていた。

あの青年は王宮で働くことに誇りを持ち、顔を合わせれば笑顔で挨拶してくれた。

謀反など縁のない男だ。

あんな酷い死に方をしなければならなかった彼が不憫でいたたまれない。

そんな彼を操りフィラの命を奪おうとしたのは一体何者なのか?

どんな理由があろうと絶対に許すことなどできない。


先程からカタカタとコンピュータに何か打ち込んでいたフェリクスが口を開いた。


「時空の亀裂と今回の件に関係性がある可能性も視野に入れて調査を進めます。しかしまずは、フィラ様の御身をお守りする方法を考えなければなりませんね」


「王宮は出入りする人間が多すぎる。結界を張るのは難しいな」


リッカルドにフェリクスは頷いた。


「ええ。王宮内にはすでに敵が侵入してしまいましたし、もうすでに新たな依り代を得ている恐れもありますからね…。フィラ様を王宮に留めておくのは危険でしょうね」


「私の屋敷に戻ることはできないでしょうか?」


カディルが問う。


「何か方法を考えましょう」


フェリクスがそう答えてリッカルドやアレクスも考え込んでいる。ランベールだけはリアムを見つめていた。


「あ。じゃあさ。」


リアムが手をポン!とたたいて提案した。

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