天体観測していたら、空から伝説の天使が落ちてきたんだが。
RIA
プロローグ
「ああ! 流星だ……!!」
星が美しく瞬く夜。碧い髪と瞳の青年は、綺麗に手入れされた広い庭で立派な望遠鏡を覗いていた。彼は22歳。カディルという。
「ああーー、願いをかけるのを忘れちゃいましたねーー」
流星が消えたあたりの夜空を見上げて、彼は残念そうにため息をついた。
「まぁ、見れただけでも良しとしますか」
ひとり言をつぶやいて彼は気持ち良さそうに深呼吸した。夜の空気は爽やかだ。一日の疲れが溶けていく。
あまり社交的ではない彼の職場は残念にもとても人が多く、日中は様々な人間関係と仕事に追われて毎日クタクタになって屋敷に帰ってくる。
そんな彼の唯一の趣味が天体観測なのだ。
静かな夜空が疲れきったカディルの心を癒してくれる。彼にとっては至福の時だった。
「さてもう一度……」
図鑑で見た、この時期しか見られないという珍しい星を今日こそは見つけたい。
カディルは再び望遠鏡を覗きこんだ。
「ーー……んん?」
遥か上空に一瞬火花が散った気がした。
(……雷?)
カディルは望遠鏡から目を外し、肉眼でジッと夜空を見上げた。しかし今夜は雲ひとつない天体観測日和。雷なんて縁のない日なのだ。
「ま、気のせいですかね」
カディルは気にするのをやめて再び望遠鏡を覗き込む。日中の彼からは想像できない陽気な鼻歌まで口ずさんで。
しかしその時だった。
突然カディルの頭上で耳をつんざくような爆音と、青白い閃光があたり一面をまぶしく包み込んだ。
「っ!?」
カディルは咄嗟に身を伏せて顔に手をかざした。眩しい光に目がくらんでしまった。視界がチカチカしてうまく見えない。カディルは必死に目をこすった。今のはただ事ではない。
今の爆音と閃光ーー!
この屋敷をドーム状に包み込む目に見えないフィールドが大きな損傷を受けたのではないか?前代未聞の出来事だ!
「一体なにが……!!」
カディルの目はようやく回復してきた。
「!?」
目を細めて見つめた先には、先程までいなかったはずの何者かが倒れているではないか。
「ーー人……!」
カディルは用心して遠目からしばらく様子を眺めたが、どうやら相手は動き出す気配がない。
そっと近づいて片膝をついて顔を覗き込むと若い女性だと分かった。
意識を失っているようだ。
長い金髪に傷だらけの顔や手。
そして白い翼。
白い翼!?
彼は目を見張った。
「天使……!?」
「カディル様!ご無事ですか!」
カディルが振り返ると黒い執事服の男が必死に駆けてくる。彼より少し年上の、黒髪の青年だ。
「ロラン。ええ、無事ですよ。それよりもこの少女が傷を負っています」
「なんだこの娘は。翼がある!? 一体どこから……」
そこでロランはハッとして頭上を見上げた。
「……まさか、フィールドを破って落ちてきたのですか? そんなはずは…」
「それは後です。それよりも医師を!」
カディルはロランの言葉を遮った。
この少女が何者なのか、先程の爆音と閃光は何だったのか、いま悠長に考えている余裕はなさそうだ。
少女は青白い顔でグッタリしている。このままでは手遅れになってしまう。
「…………」
ロランは躊躇してカディルを見返した。
助けていい命なのかーー?
「何も分からない状況で見殺しになどできないでしょう! 早くしてください、ーー命令です」
カディルの厳しい眼差しにロランは歪めた眉をそのままに小さく息をついた。
「命令」なんて言葉を日ごろ使ったことのない主人の要望を叶えないわけにいかないだろう。
「ーーすぐ医師を叩き起こして参ります」
「ええ、お願いします!」
ロランは立ち上がると屋敷に足早に向かった。カディルは心配そうに少女を見つめた。そして緊張をほぐすように息を吐くと意識のない少女を恐る恐る抱き上げる。
予想よりずっと軽くて少し驚いた。
「とにかく早く治療しないと」
カディルは少女を抱いたまま屋敷に足を向けた。
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