二人のデート

「ふぅ…。こんなものかな?」


髪を指でつまみ、クイクイ引っ張る。


お気に入りの服を着て、今日はメイクも髪もナチュラルにバッチリ決めてきた。


今日は日曜日。


彼―夜上正義くんとの初デートの日。


―あの告白の後、とりあえずお互いのケータイナンバーとメアドを交換。


彼はすぐに連絡をくれて、何度か話したりメールしたりはしたけれど、違う高校だった為に会える機会は無かった。


けれど今日、二人で出掛けることを決めた。


行き先はわたしの好きな水族館に、広場付きの遊園地。


お昼はわたしが手作りのお弁当を持っていく約束。


彼はとても喜んでくれて…ベッドから飛んで落下したそうだ…。


何度か接触をして、彼がとても素直で良い子なのは分かった。


けれどわたしは…。


「おっお待たせ! 月花さん」


「陽菜子、でしょ? あるいは、ひな」


「あっ…」


電話やメールで、苗字を呼ばれるたびに直してきた。


「自分の彼女を苗字でさん付けしてるコなんていないわよ」


「ごっゴメン、まだ慣れなくて…。ひっひなさん」


さんは…まあ目をつぶろう。


「ううん、正義くんにそう呼ばれるのは嬉しい」


ニコッと笑って、彼の手を握った。


「さっ、行きましょ! あそこのビルに入ってる水族館、ステキなのよ」


「うん! あっ、荷物持つよ」


彼はわたしの肩にかけたバッグを見た。


こういう場合は…断らない方が、男の子の面子を潰さずに済む。


「じゃあお願いね。大事なお弁当が入っているから、大切に」


「わっ分かった!」


彼は恐る恐る自分の肩にかける。


何か…新鮮だなぁ。


「ねぇ、正義くんは彼女いた?」


「えっ…!? かっ彼女らしい彼女はいなかったかな? 何か中途半端なままだったし…」


そう言ってわたしに視線を向けてくる。


「ひなさん以上に…好きになった人はいないし」


「まあ」


嬉しい言葉。


顔がゆるんでしまう。


二人で手をつなぎながらビルの中に入った。


入場券を買う時だけ手を離して、後はずっとつないだままだった。


この水族館、地元のデートスポットとしても有名だし、家族連れにも人気。


日曜日なだけに人は多かったけれど、中は広いからゆっくり見られる。


「ねっ、キレイでしょう?」


アクアブルーが目の前に広がり、色とりどり、形いろいろの魚達が泳ぎ、舞う。


「うわ…。ホントだ」


彼は感動して、言葉を失っていた。


動かなくなった彼を、無理やり引っ張り回す気はなかった。


感動している彼を見続けているのが、結構良いなって思えたから。


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