第72話:レアアイテムの確認

 その様子を窓から見ていたアリーナは、アサドが見えなくなったのを確認すると大きく溜息を吐き出した。


「はあぁ。全く、懲りない男よねー」

「あの、本当にいいんですか?」


 アサドの様子が気になってしまったアルストは再度確認を取ったのだが、アリーナは笑いながら答えてくれた。


「大丈夫よー。あんなんでも攻略組のリーダーよ? 実力は折り紙つきだからね」


 なんだかんだでアリーナはアサドの実力を認めているのだと、アルストは内心でホッとしていた。


「信頼してるんですね」

「まっさかー! そんなわけないじゃないのよ!」


 少しだけ恥ずかしそうにしているアリーナを見て、あまり追求するのは悪いかと思いアルストは黙っていることにした。


「そ、それじゃあ素材を見せてもらおうかしら! 物によっては、私に打たせてちょうだいよね!」

「俺としてはその方が嬉しいので、むしろお願いします」


 苦笑しながら、アルストはアイテムボックスから素材アイテムを取り出していく。

 その数に驚きを隠せないアリーナだったが、素材を目にしていくにつれて徐々に興奮してきたのか、顏が素材から離れることなくあちらこちらに向いている。

 そして数分後、二つの素材を指差して鍛冶をしたいと申し出てきた。


「【ダーランダーの雷牙らいが】と【アシュラの宝玉】を使わせてくれないかな?」


 どちらもレア度7の素材アイテムなのだが、アルストは一つの疑問を口にする。


「【ダーランダーの雷牙】は分かりますが、【アシュラの宝玉】も使えるんですか?」


【七色の羽根】が後衛職向きの素材と言っていたのを聞いて、【アシュラの宝玉】もそうではないのかと思ったのだが、そこはアリーナも考えているようだ。


「【アシュラの宝玉】には属性付与を施すことができるのよ」

「属性、付与?」

「知ってると思うけど、天ラスには火、水、木、土、風、雷、光、闇の八属性が存在するわ。そのどれかの特性を付与して、装備品と合成することができるの」

「へぇー。属性は知ってましたけど、付与に関しては知りませんでした」

「知ってるのは上位プレイヤーと鍛冶師くらいだからね。それで、付与できる数は素材によってことなるんだけど、調べてみたら【アシュラの宝玉】は三つの属性を付与できるのよ!」


 突然興奮し出したアリーナに驚きながら、アルストは何がどうすごいのか聞いてみた。


「ふ、普通は何個なんですか?」

「まず、付与できる素材が少ないわ。そして、付与できたとしてもそのほとんどが一つの属性だけ。それも、素材に合わせた属性なの。だけど、だけどよ! 【アシュラの宝玉】は全属性を付与できるのよ! こんな素材は見たことがないわ!」

「そ、そうでしたか」


 アルストには分からなかったが、天上のラストルームでは属性の有無が上層にいくにつれて重要度を増していく。

 それはボスモンスターが複数属性の攻撃を放つことが多くなるからである。

 ケッツクァルトルも風、火、雷という三属性の攻撃を放っていたが、下層では珍しいボスモンスターだった。

 ただ、ケッツクァルトルの攻撃力はその分低くなっており、アルストのようにソロでなければ意外と簡単に倒せるモンスターなのだ。

 だが、上層に行くとそうはいかない。

 一撃が非常に重く、それが間断なく襲い掛かってくる。

 そして属性にまで気を回せば思考が追い付かなくなり、呆気なくDPに追い込まれてしまう。

 属性対策は、上層を縄張りにしているプレイヤーが、今でも躍起になって探っていることだった。


「武器にしてもいいんだけど、アルスト君にはルイドソードがあるからね。これも魔導剣術士マジックソード専用の鎧で作ろうかと思うんだけど、どうかしら?」


【ダーランダーの雷牙】も【アシュラの宝玉】もレア度は7である。初期職は当然ながら、発展職でも分不相応なレア度になりかねないので、アルストの答えは一つしかない。


「アリーナさんが迷惑でなければ、よろしくお願いします」

「お任せあれ!」

「……それで、お代はいくらになるんですか?」


 アリーナに任せることは全く問題ないのだが、アルストが気になったのはお代の部分である。

【紫煙の光玉】を売れば足りるとは思っているものの、レア度7の素材を二つも使ってもらうのだから、それなりのGになるだろうと予想していた。


「まーだそんなこと言うわけ? もちろん、タダでいいわよ!」

「だ、だけど、それじゃあアリーナさんの商売が……」

「前にも言ったけど、こんな素晴らしい素材を扱えるだけで、それが報酬になってるのよ。だから気にしないでねー」


 本当にいいのだろうかと不安になるものの、アリーナがものすごく興奮している姿を見ると、これでいいのかもしれないとも思ってしまう。

 ならばと、Gの代わりではないがアルストは一つの提案を口にする。


「レアボスモンスターが出るかは分かりませんけど、俺が四階層のマッピングを終えたら、一緒にボスフロアに入りませんか?」


 レアボスモンスターという発言に、アリーナの動きがピタリと止まってしまった。

 そして、ロボットのようにカクカクとした動きで振り返る。


「……い、いいの!」

「え、えぇ、いいですよ。むしろアリーナさんをまた利用する形になるし、レアボスモンスターが出る保証もないので、無駄足になる可能性もありますけど」

「構わないわよ! レアボスモンスターに出会える確率なんて、普通にプレイしてたら一生出会えないかもしれないんだからね! その確率が普通よりも高いのなら、乗って損はないもの!」


 アリーナの反応を見て、アルストは内心でホッとしていた。

 Gがいらないとはいえ、その代わりになるものが提供できないかと考えていたからだ。

 不確定要素が多いレアボスモンスターではあるが、アリーナが言う通り普通ならば出会える確率の方が限りなく低いので、アリーナからすると嬉しい提案だった。


「じゃあ、アルスト君がマッピングできたらとか言わないで、今すぐ行きましょうよ!」

「えっ? でも、ご飯とか食べないんですか?」

「……もしかしてアルスト君、お昼も食べてないの?」

「す、すいません」


 時間はすでに一八時を回っており、晩ご飯の時間帯である。

 ルイドソードに興奮して昼ご飯を食べるタイミングの逃していたアルストは、空腹との戦いを強いられていた。


「……今日はこの後もログインするの?」

「一応、晩ご飯を食べてからログインする予定です」

「それなら、二〇時にここで待ち合わせしましょう。そこから一気に四階層を攻略よ!」


 気合いの入っているアリーナを見て、アルストは苦笑しながら頷くと、一度外に出てからログアウトした。

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