第70話:再戦②

 緑の羽根は風の刃が、赤の羽根は火の玉が顕現した。

 黄色の羽根はどうなるのかとアルストは視線を外さずに警戒を高めている。

 すると、黄色の羽根が激しく発光したかと思えば──一瞬でアルストめがけて一筋の光が迫ってきた。


「うおっ!」


 黄色の羽根は雷撃となり、光が無数に襲い掛かってくる。

 フレイムで相殺しながら、掻い潜ってきた雷撃は紙一重で回避していく。

 だが、直撃ではないにしろ肌を焼く余波により僅かではあるがHPが削られてしまう。

 このままでは初戦の二の舞だと悟ったアルストは、回避だけではなく間断を縫って反撃に出る。

 風の刃や火の玉よりも強力な攻撃に設定されているのだろう。一定数の雷撃が放たれた後には僅かながら硬直時間がある。

 そこに気がついたアルストは、タイミングを見計らってフレイムだけではなく、サンダーボルトも放ちながら進行方向を誘導する。

 さらにスマッシュバードまで駆使して手数を増やしていく。


「ギュルルアアアアアアァァッ!」


 好きなように飛び回れないことで苛立ちを募らせていくケッツクァルトルは、双眸をアルストに固定させて鋭い鉤爪で一撃を与えようとタイミングを計る。

 だが、この場にはアルスト以外にもプレイヤーは存在している。


「アリーナさん!」

「お任せあれー!」

「ギュルアッ!」


 アリーナは高速のフレイムを撃ち出して一発はケッツクァルトルを狙い、残りの二発で進行方向を誘導する。

 なんとか直撃を避けたケッツクァルトルだったが、回避したせいで大きく降下してしまう。

 そこを狙っていたのがアルストだ。


「ぶっ飛べ!」

「!」


 三発のフレイムが顔面に直撃、HPは一割まで減少する。

 そして極めつけの大上段からなるパワーボム。

 魔導師マジシャンの戦い方ではないと言われようとも、これがアルストなりの戦い方なのである。


「これで、終わりだああああああっ!」

「!!!」


 フレイムの直撃により減速していたケッツクァルトルに、パワーボムを回避する術は残されていなかった。

 アルストは飛び上がり、ケッツクァルトルの頭上から背中めがけて炎木の杖を振り下ろした。


「ギュルルアアアアアアァァッ!!!」


 直撃と同時に大爆発。

 ケッツクァルトルの絶叫が響き渡るのと同時にHPが全損、光の粒子がボスフロアに広がった。


『ボスモンスター:鳥獣ケッツクァルトル討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』


 電子音を聞いても、アルストは討伐を実感することができずにいた。


「……か、勝てた、のか?」

「おーっ! アルスト君、おめでとう!」

「ありがとう、ございます」

「んっ? どうしたの?」


 確かに勝利した。そのことに疑いの余地はない。

 だが、ソロで倒したとは言い切れないことに、勝利という二文字に疑問が浮かんでしまった。


「……アリーナさんの、おかげですね」

「そんなことを考えてたの?」


 アルストの疑問を、アリーナはそんなことの一言で片付けてしまう。


「私を利用しろと言ったのは私。使えるものは使えと言ったのも私。アルスト君は私を利用してケッツクァルトルの進路を限定して、剣術士ソードメイトのスキルも駆使してケッツクァルトルを倒したんだから、胸を張りなさいよ!」

「……結局、剣術士のスキルに頼っちゃいましたね」

「いいんじゃないの?」

「さっきと言ってることが違くないですか?」


 ボムバードを相手にしている時には、魔導師の戦い方ではないと怒られてしまった。

 だが今は剣術士のスキルを使っても良いと言っている。

 どちらが正しいのか、アルストには分からなくなっていた。


「私が示したかったのは、魔導師としての戦い方なの。そして、アルスト君はそれを実践して見せた。さらに、魔導師としての戦い方の中に剣術士の戦い方を融合させた。それはいいことじゃないのよ」

「……まあ、融合って言われると、そうですね」

「最初の頃のアルスト君は魔導師としての戦い方がなっていなかった。でも今は教えたことを実践できている。それなら全然構わないのよ」


 魔導師としての戦い方ができていれば、そこにプラスアルファを加えるのは問題ではなく、むしろ良いことなのだとアリーナは言う。


「魔導師を極めるならこれくらいじゃダメだけど、あくまで通過点にするなら、最低限のことができていればいいのよ」

「……俺は、最低限のこともできてなかったんですか?」

「酷かったわね。いきなりスマッシュバードだもの」

「……すいません」


 アリーナの指摘を受け止めて、それでもこれでよかったのだと思えるようになっている。

 装備を作ってもらうだけではない。

 アルストは、アリーナとの出会いに心の中で強く感謝していた。

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