第65話:目標への決意
アルストはバベルの一階層を進みながら、こんなことを呟いていた。
「毎回一階層を進むのも面倒だなぁ」
転移門を使えるようになるのは五階層区切りになっており、それまでは毎回一階層から登っていくしかない。
道順は覚えているので二階層に上がるまで五分と掛からないのだが、それでも時間を要していることに変わりはなかった。
「
五階層まで行くのであればその方が早い。
ただし、転移門が使えるとはいえ一気に三階層や四階層に行けるわけではなく、あくまでもバベル入口から五階層まで行けるというものだ。
間の階層に行きたい場合はどちらにしろ登るか降りるかをしなければならないので、急いで行く必要もないかと判断してそのまま向かうことにした。
一階層から二階層、そして三階層へ進出したアルストは、ここでも新しいモンスターを目にすることになった。
「カエル、だよな?」
アルストとほぼ同じ大きさのカエルが目の前に現れた。
名前を見るとフロッグイーターと表示されている。
「……食べられそうだな。とりあえず、魔法でふっとばすか」
炎木の杖を突き出してフレイムを放つと、身動きすることなく着弾。
驚いたアルストだったが、爆発による煙が晴れていくとさらに驚きの光景を目撃する。
「……き、効いてない?」
フロッグイーターの
そして攻撃されたことに気づいたフロッグイーターの目がアルストをぎょろりと見つめている。
「カエルだから、水属性持ち? 火属性に耐性を持っているのか?」
ならばとサンダーボルトを放とうと杖を掲げようとしたのだが、直後にフロッグイーターが口を大きく開けると中から長大な舌がアルストめがけて迫ってきた。
「うおっ!」
「ゲロウ?」
杖を両手でしっかりと握り舌めがけて振り下ろすと、なんとか打ち落とすことに成功して距離を取る。
手汗を拭いながら、アルストはフロッグイーターの足元にフレイムを放つと、爆発と同時に砂煙が視界を覆い隠す。
「ゲロウゲロッ!」
ところが、フロッグイーターは四肢で地面を蹴りつけると天井にぶつかるギリギリまで跳び上がり砂煙を飛び越えて頭上から迫ってくる。
予想外の動きに驚愕するアルストだったが、そこは剣術士としてプレイしてきたことで体が自然と動いていた。
炎木の杖を肩に担ぎ白い光を纏わせると、渾身の力で振り抜きスマッシュバードを放つ。
白い刃がフロッグイーターの胴体にめり込むと、HPを四割削り取る。
態勢をを崩して地面に落下したフロッグイーターが起き上がる前に発動したのはサンダーボルト。
落雷が真っ直ぐに命中すると、残るHPが一気に無くなり光の粒子に変わってしまった。
「うーん、やっぱり初見のモンスターには苦戦するな」
アルストのレベルであれば三階層も問題なく攻略できる。攻略サイトを見てしまえば本日中に五階層まで到達することも可能だろう。
それをあえてしないのがアルストであり、純粋に天井のラストルームを楽しむために自分の足でマッピングをしていきたいと考えている。
だが、それは同時に危険も伴ってしまう。
「ぐおっ!」
「ピーヒョロロー」
天井スレスレを飛んでいるモンスター――ボムバードから爆撃を落とされている。
爆発しているのはボムバードの羽毛であり、それが地面に触れるのと同時に爆発。
フレイムを放つものの、頭上を自由に動き回るボムバードにはなかなか当たらず、アルストは苦戦を強いられていた。
「こんなところで、苦戦をしている場合じゃ、ないんだよ!」
大声で気合を入れながらフレイムを同時に三発放ち、ボムバードの進行方向を限定させる。
同じ事を三度行い壁際に追い詰めると、すかさずサンダーボルトを発動。
雷雲の間近にいたこともあり即座に命中、地面に落ちてきたところにパワーボムを叩き込むことで仕留めることに成功した。
この時点でアルストのHPは六割まで減少している。
そして、目の前にはボスフロアへと繋がる大扉。
進むか、戻るか。
「回復薬を使ってから入るか」
アルストに迷いはなかった。
突き動かすのはアリーナから受け取ったルイドソード。
早くこの手で握り、思う存分振り回したい。
その感情が、想いが、アルストを前へ前へと突き動かしていく。
魔法が使える最強剣術士。そんなプレイヤーになりたいと、天上のラストルームの職業欄を眺めながら考えていた。
最強にはなれないだろうが、それでも魔法が使える剣術士にはなれる。
「……いや、装備を考えたら案外いけるのかも?」
固有能力の補正は低いものの、レアアイテムがドロップするならば、補正の低さを補ってあまりある結果になるかもしれない。
そんなことを考えながらHPを回復させたアルストは、スキルを発動させると大扉を開いて三階層のボスへと挑むことにした。
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