第64話:完成品

 アルストは休む間もなくアリーナの武具店に足を運んだ。

 だが、武具店に入ると先客がおり、その人は以前に見たことのある顔だった。


「あの人、攻略組のリーダーじゃないか?」


【ねこじゃらし】のお礼もかねて武具店を訪れた時に見かけたプレイヤー。

 青髪の短髪、長身で痩せ形だが背中に背負う槍は自身の身長を優に越えるサイズであり、前衛職だということが人目で分かる。

 どうしたものかと悩んでいると、アリーナの方がアルストに気づいて手を振ってくれた。


「もう着いたのねー。さあさあ、客が来たからさっさと帰ってちょうだいよー」

「むむむっ、良い返事は聞かせてくれないのか?」

「だーかーらー、私はもう攻略組を引退したんだってばー」

「だが、天ラスにはログインしてるじゃないか」

「遊び程度にはやるわよ。ほーら、さっさと帰った帰ったー」


 背中を押されたリーダーは渋々入口に移動する。

 邪魔にならないよう横にずれたアルストだったが、リーダーはアルストのことを覚えていたようで声を掛けられた。


「おっ、前にもここで会ったね」

「あっ、そう、でしたね」


 突然話し掛けられてしまいしどろもどろになるアルスト。


「俺は攻略組のリーダーをしてるアサドだ。どうだい、君も攻略組に入らないか?」

「いや、俺はその、ソロで」

「ソロか! それなら攻略組に入っても大丈夫だぞ、自由度は全然高いからな!」

「えっと、お断りします」

「何故だ! 攻略組はいいぞー。そうだ、君の名前は──」

「はいはい、客を困らせるなー。営業妨害で訴えるぞー」

「なっ! それは酷いぞアリーナ!」


 自己紹介を行う前にアサドは押し出されてしまい、アリーナはドアに鍵を掛けてしまった。


「ごめんね、アルスト君」

「いえ、なんかすいませんでした」

「いいのよー。それに私が呼んだんだし」


 肩をポンと叩いて奥に歩き出したアリーナを追い掛けてアルストも奥に向かう。

 以前にアレッサ達と入った部屋に移動すると、机には見たことのない剣が置かれていた。


「……こ、これって」


 アルストは剣が放つ圧力を知っている。

 天上のラストルームにログインして、最初のボスモンスターを倒した時──正確には最初のレアボスモンスターを倒した時に感じた圧力だ。


「ふふふっ、気づいたかしら? ようやく完成したのよー。いやー、仕事をしたーって感じだわ!」

「やっぱり、【ゴルイドの剛骨】から剣が出来上がったんですね!」

「その通りよ。銘は【ルイドソード】、レア度7の正真正銘、世界に一本しかない剣だよ!」


 白銀に輝く刀身、艶めく漆黒の鍔、そして燃えるような深紅の柄がアルストの視線を釘付けにする。

 今はまだ装備することのできない魔導剣術士マジックソード専用装備だが、ルイドソードを見てしまうとよそ見することなどできるはずもなく、まっすぐに魔導剣術士を目指すべきだとアルストは決意した。


「あ、ありがとうございます、アリーナさん!」

「こちらこそだよ。こんなすごい素材から武器を作れるなんて思ってもいなかったからね」


 笑顔のアリーナに頭を下げながら、アルストはルイドソードを受け取った。

 しばらく眺めていたかったが、アリーナの迷惑になってはいけないとすぐにアイテムボックスにしまう。


「肥やしにしないでよね」

「もちろんです! 今はまだ魔導師マジシャンですが、すぐに魔導剣術士まで駆け上がって見せますよ!」

「うん、その意気だよ」


 ルイドソードに興奮していたアルストだったが、アリーナが口にした質問に冷静さを取り戻す。


「……ところでさ、最近アレッサちゃんとエレナちゃんを見かけたかな?」

「……いえ、俺は見かけてません。ということは、アリーナさんも?」

「そうなのよね。イベントが終わってお金ができたらすぐにでも来ると思ってたんだけど……」

「えっ! もしかして、フレイム・ドン・スピアも買いに来てないんですか?」


 アルストの驚きにアリーナは頷く。

 イベントで手に入れた【紫煙の光玉】を売却すれば問題なく貯まるはずなのだが、エレナは買いに来ていない。

 とても気に入っているように見えていたアルストとしては信じられないことだった。


「もしエレナちゃんが忘れたとしても、アレッサちゃんが教えてくれそうなんだけどなぁ」

「……それ、軽くエレナさんをディスってます?」

「えっ? あははー、そんなことないわよー?」


 乾いた笑いで誤魔化そうとするアリーナはさておき、アルストは二人のことが心配になり始めていた。


「ログインしている時があれば、メールでもも送ってみますよ」

「そうしてちょうだい。私からメールすると、買いに来るのを催促してるみたいでさ」

「そ、そんなことはないと思いますけど、了解しました」


 最後に苦笑を浮かべたアルストは、アリーナと別れるとレベル上げをするために再びバベルへと向かった。

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