第46話:相談
そのままアーカイブへと戻りクエスト屋で報酬を受け取る。
一人当たりの報酬額は700
昨日の今日でこれだけ稼げれば、後はクエストを受けなくても普通にプレイしていれば目標額まで貯まるだろう。
食事を終えて元気になったはずなのだが、アルストにとって今回のクエストは相当疲労が溜まるものだった。
少しゆっくりしたいと二人に伝えると、その足でアリーナの武具店へ向かうことになった。
何故そうなったのかというと、三人が手に入れたドロップアイテムの使い道を相談するためだ。
いきなりでは迷惑だろうとアルストからメールをしたところ、『すぐに寄ってほしい』と送信して一分も経たないうちに返信がきたのですぐに向かった。
「さあ! 今すぐに見せてちょうだい!」
そして今、恐喝を受けているかの如く詰め寄られている。
こちらからお願いしたことではあるのだが、さすがに後退りしてしまう。
だがエレナは構うことなくドロップしたアイテムをアリーナに見せており、それを見たアリーナもルンルン気分で物色を始めた。
「これはアルスト君が持ってきたものと同じミスリルね。こっちは……へぇ……ねえ、もしかしてレアボスモンスターと戦ったの?」
「あー、分かりますか?」
「やっぱりねー。まあミスリルがある時点でだろうなって思ったけど、これはさすがにねぇ」
そう言って手に取ったのは素材アイテムの【ゲルセンギル】だった。
「それも貴重な素材アイテムなんですか?」
「レア度5だからね。ミスリルがレア度3だからって言えば分かるかしら?」
【ミスリル】でも一階層や二階層から出てくるのはおかしいと言っていたのだ。それ以上のレア度のアイテムとなれば当然貴重であり、レアボスモンスターと遭遇したのだと考えるのは当然かもしれない。
「エレナちゃんの場合はフレイム・ドン・スピアを買う予定だから武器を作るのは違うのよね。やっぱり防具を作る方がいいかしら?」
「その方が助かるぞ!」
「了解よ。だけど、素材から装備を作るのにもGが掛かるけど大丈夫?」
Gが掛かると言われてエレナの動きがピタリと止まった。
フレイム・ドン・スピア購入のために貯めているGであり、素材から装備を作るために掛かるGを考えていなかったのだ。
「……素材自体は用意してもらってるから、出来てる作品を買うよりは安く上がるわよ?」
「お願いします!」
「ちなみに、前払いだけど大丈夫? フレイム・ドン・スピアは買えそうなの?」
「そ、それは……」
エレナはここで現在の所持Gをアリーナに伝えた。
「へえ! もうそんなに貯めたのね!」
「だ、だがまだ足りない! ここで防具を作ってもらうとなると……ち、ちなみに、いくら掛かるんだ?」
「そうねぇ。ミスリルとゲルセンギルだから……全部で1500Gかな」
「た、高い!」
「これでも十分安いのよ? 出来上がった物だと一つでこれくらいするんだから」
金額に腰が引けてしまったエレナだったが、アリーナから出来上がった作品の相場を聞くと悩み始めてしまった。
商売上手だなとアルストは思っていたが、実際にその通りであることは知らなかった。
アリーナの武具店はとても健全なのである。
「……わ、分かりました! お願いします!」
「い、いいの、エレナちゃん?」
「構わん! 明日からイベントもあるんだ、絶対にまた貯めてみせる!」
「毎度ありー!」
そのまま素材を受け取ったアリーナは、次にアレッサへ視線を向けた。
「アレッサちゃんも素材を持ってるの?」
「それが、私は装備品しかドロップしなかったんです」
そう言って取り出したのは、どれも前衛職専用の装備だった。
「なるほどねー。レア度は高くても使い道がないってことか」
「……はい」
「フレイム・ドン・スピアと同じで私が代わりに売ることもできるけど……エレナちゃんに使ってもらうこともできるわよ?」
アルストの場合は出会ってすぐのエレナにレア度5という高レアリティの装備をあげることはなかったが、アレッサは違う。
エレナと一緒に天上のラストルームを始めて、パーティを組んでプレイしている。
現実でも友人ならばエレナに使ってもらうのはありではないだろうか。
「あっ! 確かにそうですね。エレナちゃん、私の代わりに──」
「ダメだ!」
だがエレナは声を大にして断ってきた。
きょとんとしてるのはアレッサだけではなく、アルストもアリーナも同様だ。
「……あっ、いや、その、何かを無償で貰うのは、あまり好きではないんだ」
「……そっか、そうだったね。アリーナさん、やっぱりこちらで置いてもらってもいいですか?」
「私は構わないけど……本当にいいの?」
「はい」
困惑しているアリーナだったが、アレッサが言うならと二つの装備を預かることにした。
職業専用ではなく前衛職専用の腕当と脚当なので早い段階で売れるだろうと断言している。
疑問に思っていることに変わりはないが、そこは商売人として確信を得ていた。
そして視線はアルストへ向かう──が、次に発せられたアリーナの言葉に首を傾げてしまう。
「それじゃあ今日はここまでねー」
「えっ! あの、俺は?」
「アルスト君からは色々預かってるからね、これ以上預かっても手が回らないのよ」
「あー、確かにそうですね」
アルストは【ミスリル】二つに【ゴルイドの剛骨】を預けている。
言われてみれば頼り過ぎていたと反省したアルストは素直に従うことにした。
「アルスト君から預かったミスリル二つから仕上げて、その後にエレナちゃんのミスリルとゲルセンギルを仕上げるからさ」
「ありがとうございます!」
「それじゃあまずはお会計ねー」
「……はい」
カウンターでGの支払いを終わらせたエレナはとても落ち込んでいた。
だがここで一つの疑問が出てきたアルストはアリーナに声を掛ける。
「アリーナさん、俺は──」
「アルスト君、後で二人で話できないかな?」
しかしアリーナから意外な提案を持ち掛けられた。
「大丈夫ですけど……でも、ログインをしてると二人に気づかれますよ?」
「ふむ……後でメールするから見てちょうだい」
「は、はぁ」
何かあるのだろうか。疑問に思いながらもここで話さないということは、二人に関係したことなのだと察して追求はしなかった。
武具店の外に出てしばらくするとアリーナからメールが届き、アルストは内容に目を通す。
「……そういうことですか」
コミュ力皆無のアルストにとっては難易度の高い内容だったが、お世話になっていることもありすぐに返信を済ませる。そして──
「すいません。ちょっと今日は疲れたのでログアウトしましょうね」
「なに! Gを使ってしまったから、また貯めないといけないんだぞ!」
「二人だけでも十分にやれますよ。それに俺にも用事があるんです」
「……そうですか。それでは仕方ないですね。私達はもう少し楽しみたいと思います」
アレッサの言葉を聞いて少し申し訳なく思いながら、アルストはその場でログアウトした。
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