第27話:二階層攻略③
回避されるだろう。そう思っていたアルストの目の前では、白い斬撃がダーランダーの胴体に直撃する光景が飛び込んできた。
『グルアアアアァァッ!』
何が起こったのか分からなかったアルストだが、すぐにその理由を推測する。
「雷撃を放った直後には硬直時間ができるのか?」
大抵の場合、攻撃を放つとその反動で硬直時間──無防備になる時間ができることがある。
ダーランダーもその例に漏れることなく硬直したためにスマッシュバードが当たったのだと判断した。
「これなら、やりようはあるか」
そう言いながら、アルストはアスリーライドを撫でた。
レア度5のアスリーライドにはフレイム・ドン・スピアのように特殊効果が備わっている。その能力を駆使すれば硬直時間を利用してパワーボムを当てられると判断した。
「それじゃあ、やるか!」
気合いを入れて駆け出したアルストは直線的にダーランダーへと迫っていく。
迎撃する構えのダーランダーは前脚を高く振り上げて一気に振り下ろす。
地面を揺るがしたかと思った直後には雷が前脚を中心にして円上に広がった。
横に大きく飛び退いたアルストは、雷の範囲外に着地したのと同時にスマッシュバードを放つ。
今回も当たったのを見たアルストは、時間は短いものの雷を放つ攻撃の後には必ず硬直時間が生まれると見極めた。
二発のスマッシュバードが当たったことでダーランダーの
半分まで削るとアスラのように攻撃パターンが変わる可能性もあるが、雷撃のような大技は必ずあと数回は放つだろう。そのタイミングを逃さないように注視していた。
『グルオオオオォォッ!』
「って、ここで新しいパターンか!」
ダーランダーは遠距離戦では分が悪いと判断したのか、四肢を踏みしめてアルストめがけて突っ込んできた。
鋭い牙が煌めきを覗かせる口内にはバチバチと光が踊っているのも見てとれる。
噛みつかれたらダメージはもちろんのこと麻痺状態になるのは確実。
アルストはダーランダーの動きを瞬きせずに見続けて、一気に飛び込んでくる直前に左へのサイドステップで回避すると、すれ違い様に袈裟斬りを叩き込んだ。
『グルアッ!』
「おまけでどうだ!」
すぐさま振り返るのと同時にスマッシュバードを発動、大ダメージを与えることができる背中に白い斬撃が命中した。
これでようやく三割を削ることに成功したが、まだまだ先は長い。
息を大きく吐き出したアルストは、最初に見せた回り込みながら間合いを詰める戦法をとった。
思惑通り、ダーランダーはその場で体の向きを変えながらアルストを正面に捉えようとしている。
しばらくして──アルストは急に立ち止まった。
『ガアアアアァァッ!』
その瞬間を見逃すことなくダーランダーは口を大きく開けて雷撃を放った。
「こうも呆気なく釣られるのか」
少し拍子抜けしたような声を漏らしたアルスト。
雷撃が当たる前に再び駆け出して回避を続けていると、徐々に威力が落ちていき放射が止まる。
その直後に方向転換、今まで見せたことのない速度でダーランダーへと迫った。
これがアスリーライドに備わっていた特殊効果の一つ──スプリンター。
効果は発動した最初の一歩の俊敏が三倍になるというもの。三回のストックを持つことができ、消費したストックは一時間に一つ回復する。
アルストはダーランダーが硬直するこのタイミングでスプリンターを発動した。
たったの一歩で彼我の距離が一瞬のうちに無くなる。
驚愕に目を見開いたダーランダー。
アルストは加速した勢いそのままに大きく跳躍してアルスター3を大上段に構える。
赤く輝く刀身は、高い跳躍に比例して力を溜めているようだ。そして──
「パワーボム!」
『!!!!!!』
ダーランダーの眉間を斬り裂いた一撃を追いかけて爆発が巻き起こる。
しかしこれで終わりではない。振り返り後方から連撃を加えてダメージを与えていく。
だが、ダーランダーは終わらなかった。
渾身のパワーボムに加えて後方からの連撃。それを行ってなお、HPは二割を残していたのだ。
「た、耐久力も半端ねえな!」
硬直が解けると判断して一度後退するアルスト──だが、ダーランダーの俊敏はアルストの動きを凌駕して肉薄してきた。
『グルアアアアッ!』
「マジかよ!」
予想外の追撃にアルストが取った行動は、スプリンターの発動だった。
二つ目のストックを使ったアルストは紙一重で鋭い牙による一撃を回避したものの、残りストックが一つになったことに歯噛みする。
HPの減り幅を見ればもう一度パワーボムを当てることができれば勝利を納めることができるだろう。
だが、HPが半分を切ったダーランダーが手強くなる可能性もあり──その予想は的中した。
『……フウウウウゥゥッ』
「……これ、どうするんだよ」
口内から白い息を吐き出すダーランダー。その周囲には白い発光がバチバチと音を立てながらまとわりついている。
今のダーランダーは雷の鎧を纏っているようなものだった。
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