第26話:二階層攻略②

 アスラの時とは異なり回り込むようにして移動を行い徐々に間合いを詰めていく。

 ダーランダーは顔をアルストに向けながら体を移動させているがその場から動く気配はない。

 このまま間合いを詰めるのも一つの手だが、アルストは離れた場所から仕掛けることにした。


「スマッシュバード!」


 白い飛ぶ斬撃がダーランダーへと迫る。

 眉間を斬り裂くと思われたスマッシュバードだったが、ダーランダーは当たる直前に四肢へ力を込めて大きく跳躍すると容易く回避。さらにアルストへと飛び掛かり右前脚を振り下ろしてきた。

 大きく跳躍したその下をくぐり抜けるように全力疾走したアルストは間一髪で振り下ろしを回避してすぐに振り返る。


 ──バチバチッ!


 そこで見た光景は、一撃でも攻撃を受けてしまえば成す術なくDPデスペナルティへ追い込まれるだろう雷が地面を発光させている映像だった。


「これが、雷獣の姿ってことかよ!」


 攻略サイトを熟読すれば麻痺耐性必須と載っていたに違いない。

 今更後悔しても遅く、アルストはノーダメージでダーランダーを倒さなければならないと判断した。

 ダーランダーは再びアルストを観察しながら飛び込むタイミングを見計らっている。

 このままではジリ貧になると判断したアルストは再びスマッシュバードを放つ。

 デジャブのようにダーランダーが跳躍して回避しながら飛び込んでくる。

 だが、今回は回避するのではなく空中にいるダーランダーめがけてアルストが飛び掛かった。


「ふっ!」


 振り上げられている右前脚を避けて無防備になっている左前脚へとすれ違いざまに横薙ぎを放つ。

 強靭な筋肉を斬り裂く感触を手に感じつつ、後方からはダーランダーの苦悶の声が聞こえてくる。

 着地と同時に振り返りHPヒットポイントを確認すると、僅かではあるが減少しているのを確認できた。


「こ、これを繰り返したとして、どれだけ時間がかかるんだよ!」


 時間制限があるわけではないが、ここで長時間を浪費するのももったいない。

 もっと効率よくダメージを与えられる方法がないかと考え始めた。

 スマッシュバードはダーランダーの俊敏性が勝り当てるのは難しいだろう。かといって不用意に接近戦を仕掛ければ雷が付与されている一撃を受ける危険性が高くなってしまう。

 ボスモンスターを相手にして無傷で勝利しようというのがあり得ない考えなのだが、事前対策を行なっていないアルストにとってはそのあり得ないを成し遂げなくてはならなかった。


「なんとかパワーボムを当てて一気にダメージを与えたいところだけど、どうやって当てる?」


 アルスト最大の攻撃力を誇るパワーボムは大上段斬りが発動の条件になっている。攻撃力補正がかかった一撃と爆発による追加ダメージがあるのだが、大振りになることで回避される可能性も高い。

 もし回避されてしまうとカウンターを浴びる可能性もあるのでパワーボムを発動するには注意が必要だった。


「やっぱり狙うなら跳躍している時だよな」


 強靭な四肢による移動ができなくなる空中にいる状態。その時を狙いこちらがカウンターでパワーボムを当てるのが一番確率の高い方法だった。

 ならばもう一度スマッシュバードを放とうとアルスター3を肩に担ごうとした時である。

 ダーランダーは鋭い牙が光る口を大きく開けてこちらに向けた。


「──ヤバい!」


 口内からバチバチと光が弾け飛ぶのを見たアルストはなりふり構わずに真横へと全力で駆け出す。

 アルストの直感は正しかった。

 ダーランダーの口内から黄色い発光を伴った雷撃が放たれたのだ。

 まるでレーザーのように放たれる雷撃は数秒間放射され続け、ダーランダーが首をアルストの方へ向けるともちろん雷撃もそちらへ移動する。

 雷撃の放射がどれほど続くのか分からないが、当たってしまえば麻痺になることは確実だろうと全力で逃げ回るアルスト。

 5秒ほど放出された雷撃は徐々にその勢いを落としていくと、やがて完全に消えてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、あれは反則だろう!」


 あまりにも危険な攻撃に自然とこぼれ落ちる怒声。

 こちらの遠距離攻撃は当たる気すらしないのに対して、ダーランダーの雷撃は長時間の放出が可能でありそのまま狙いを定めることも可能だ。


「スペックが、違いすぎる」


 一階層で相対したアスラとは一気に難易度が上がったこともあり、アルストは運営の難易度設定に苛立ちを覚えていた。


「……まさか、レアボスモンスターだなんて言わないよな?」


 だとするならばこの難易度も納得できる。

 武神ゴルイドと比較するならば雷獣ダーランダーは勝るとも劣らない実力を持っていると感じていたからだ。


「最悪、救済処置を利用して仕留める作戦も考えとかないといけないか?」


 救済処置は最後の一回である。できるなら使いたくないのが本音なのだが、ダーランダーの実力を肌で感じてしまうとそんなことは言っていられなかった。

 一分間の無敵時間を利用してパワーボムを当てる。だがダーランダーが無防備でいてくれるはずもない。

 救済処置を利用するならば、それこそ確実にパワーボムを当てなければならなかった。


「ちくしょう。こんなことならパーティで来るべきだったかな?」


 そう考えたアルストだったが、すぐに首を横に振った。

 ソロプレイで続けていくと決めたのだから、一時のパーティに頼るべきではないと言い聞かせる。


「こいつは、絶対にDP喰らわずに倒してやるさ!」


 雷撃を回避しながら跳躍したダーランダーにパワーボムを当てる。

 頭の中でシミュレーションを行ったアルストは動かなくなったダーランダーめがけてスマッシュバードを放った。

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