第24話:パーティで二階層

 二階層に進出してからはアルストも戦闘に加わった。

 アルストも数回しか戦闘をしていない階層を二人だけに任せるわけにはいかないと判断したのだ。

 それでも大半の戦闘はエレナを中心にして、アルストとアレッサはサポートに回り通路を進んでいく。

 アルストが苦戦したマッスルベアーが現れた時は協力して倒し、エアデビルが現れた時はアレッサの魔法で打ち落とす。


 初めて遭遇するモンスターも当然いた。

 魔法を駆使して攻撃してくるメイジシャンにはアルストも肝を冷やしたが、ここでもアレッサが活躍してくれた。

 魔法を魔法で相殺しアルストとエレナが近づく時間を作ると、プレイヤーの魔導師マジシャンと同じで耐久力は低く一撃で仕留めることに成功した。


「お、俺一人だったら危なかったかも」


 アリーナは初期職でも五階層までなら行けると言っていたが、アルストにその自信はなかった。

 もちろんソロプレイで階層攻略はするつもりだが、その時はDPデスペナルティも覚悟しなければならないだろう。


 次に現れたのは根っこを蠢かせて近づいてくるトレントだ。

 伸縮自在の蔦をしならせて攻撃をしてくる相手に対して、アルストとエレナが二人がかりで前進を試みる。

 蔦を斬り飛ばしながら突き進み、時にはお互いに庇い合いながらトレント本体に近づいて交互に攻撃を繰り返すことでHPヒットポイントを削っていき、時間はかかったが倒すことができた。

 植物系のモンスターだったのでアレッサのフレイムが有効かと思えば、燃えた蔦をトレント自ら自切してダメージを最小限に抑えているのを見た時は驚いたものだ。


 三人で協力しながらエレナのゴールドを貯めていたのだが、時間が経つのは早いものであっという間に夜中〇時が迫ってきた。

 天上のラストルームとゲーム機本体を購入するために慣れないバイトをしていたアルストは睡魔に襲われ始めた。


「あー、すいません。俺、そろそろログアウトして休みます」

「なんだと? 夜はこれからじゃないか!」

「いや、元気ですね、エレナさんは」

「ごめんなさい、アルストさん。すぐに戻ってログアウトしましょう」

「……アレッサが言うなら仕方ないな」


 アレッサには弱いエレナに苦笑しつつ、三人は来た道を引き返してアーカイブへと戻った。

 五階層まで行けば転移門がありバベル入口から一気に移動することができる。これは逆もしかりで一気に戻ることも可能だ。

 ただ五階層区切りでしか転移門は確認されていないので今の三人には利用できない。

 面倒ではあるが自分の足で戻る以外に方法はなかった。

 アーカイブ入口に到着した時には〇時を回っており、アルストは限界を迎えていた。


「あー、明日も暇なのでログインしますが、一応フレンド登録だけ、しときますか?」

「お願いします」

「私も頼む」


 あくびを我慢しながら二人にフレンド申請をして、了承を確認してからアルストはログアウトをした。

 その場にはアレッサとエレナが残される。


「……さて、これからどうしましょうか」


 アレッサはログアウトするつもりがないのか、深夜に差し掛かっても天上のラストルームをプレイするつもりのようだ。


「レベル上げでもするか?」

「いえ、まだ二人だけでは不安です」

「むっ、私はもう大丈夫だぞ?」

「エレナちゃん、アルストさんに変な対抗心を燃やしてない?」


 アレッサの指摘にエレナは明後日の方向を見て何も答えない。

 苦笑を浮かべながらもあえて追求することはなかった。


「しばらくはアーカイブで情報を集めましょう」

「そうか、分かった」

「それにしても、エレナちゃんがこんなにゲームが苦手だなんて思わなかったわ」

「初めてなのだから仕方ない。だがコツは掴んだからな、今後はアルストに遅れを取るようなことはないよ」

「どうかしら。アルストさんはゲームに慣れているようでしたよ?」

「負けん!」


 楽しげな会話が終わると、二人は夜のアーカイブに姿を消してしまった。


 ※※※※


 現実世界に戻ってきた矢吹やぶきは歯を磨きながらアレッサとエレナについて考えていた──いや、実際にはアレッサについて考えていた。

 的確に魔法を発動する判断力はゲーム初心者の動きではない。

 それは一階層での戦いを見た時は半信半疑だったものの、二階層に進出してからの戦い方を見てからは確信へと変わった。

 アレッサは確実に強くなる。固有能力が魔導師の補正になっていればなおさら強くなるだろう。アルストなんてすぐに追い越されるかもしれない。


「……まあ、次のイベントが終わるまでの付き合いなんだから別にいいのか」


 面倒ごとはごめんだが、来週の今頃になればイベントも終了しているはず。結果発表に多少の時間は掛かるだろうが、それでも一日二日くらいだろうと矢吹は考えていた。


「ふわああああぁぁ……寝よう」


 歯磨きが終わり冷えた水を一気に飲み干すと、そのままベッドにうつ伏せで倒れ込む。

 顔を横に向ければHSヘッドセットが視界に入った。

 寝る間も惜しんでログインする人の気持ちなんて分からないと思っていた矢吹だったが、今なら分かる気がする。

 実際に頭の中ではログインしようか寝ようかという自問自答が繰り返されていた。

 だが、今回は睡魔に軍配が上がった。

 矢吹も気づかないうちに、深い眠りに落ちていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る