第118話 その光の先に


『先生……助けて、先生……』


 バッと体を起こす。


 今はフィーと交代で軽く睡眠をとることにしている。そして、今はちょうど俺の番だったのだが……アリスの声が聞こえてきたのだ。


 いや、聞こえてきたという表現は正しくないのかもしれない。


 それは俺の頭の中に直接響いたような……そんな感覚。もちろん、すぐにフィーに確認をとる。


「フィー、聞こえたか?」

「え……なにが? 急に起きてきたと思ったら、どうしたの?」

「やはりそうか……」


 そして、フィーにいま起きた現象について説明することにした。別にこれは初めてのことではない。この地下空間に降りてくる直前にも、アリスの声は聞こえていたのだ。


 その声が聞こえるのは俺だけ。一方で、フィーのやつは聞こえていない。


 これは何かあると考えるのが妥当だろう。


「そっか。なるほどね。もしかして、アリス王女がエルに直接呼びかけているとか? 手段はちょっとわからないけど」

「そうだな。声も、俺に助けを求めるものだった。そう考えるのは、妥当かもしれない。ただ呟いている言葉を拾っているとは考えにくいしな」

「そうね。さて、次は私が寝るわね」

「あぁ。ほら、俺の膝を使うといい」

「う……じゃ、じゃあ……失礼して」


 仮眠とるといっても、ここには寝具などありはしない。俺も仮眠を取るときは、フィーの膝を借りていた。


 ということで交代になるので、素直にフィーに膝に頭を乗せるように促す。


 すると、彼女の頭が膝に乗ると……そのままじっと動かなくなる。しばらくすると、フィーの寝息が聞こえてくる。


 すぅ、すぅ、と寝息を立てているがよっぽど疲れていたのだろう。こんな状況だ。疲れが溜まるのも仕方がないだろう。俺も仮眠を取ることになって、すぐに寝たしな。


 そして、一人で改めてこの状況を整理する。


 まずはアリスがどこにいるかだ。この地下空間にいるのは間違い無いと思っている。それは、あの声が近くなっている感覚があるからだ。聞こえる間隔も近くなっている。


 それは、あの青い光と同様だった。あの光に近づくと、アリスの声が聞こえる。


 いや、そう考えると……もしかして、あの光はアリスそのものなのか……?


 と、そうした瞬間にその光が急に瞬くように輝き始める。


「光が……」


 その眩い光は、さらに勢いを増していく。俺は慌てて、フィーの体を揺する。


「フィー、おい。フィー」

「ん……もうそんな時間……? 早く無い」

「あれを見ろ」

「え……? なんかめっちゃ光ってるけど」

「行ってみよう」

「ちょ!? エルっ!!?」


 俺は何かに駆り立てられるかのように、その光に向かって駆け出すのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る