第115話 青い光
『先生……助けて……』
アリスの声が確かに聞こえる。
だというのに、俺たちはこの地下空間で彷徨っていた。
「エル。声が聞こえるっていうけど、どこにいるの?」
「分からない」
「え……それって、どういうことなの?」
フィーはポカンとした表情を浮かべる。しかしこれはどう説明するべきか……俺にも詳細はわかっていないのだ。
「すまない。俺にもよくわかっていない。だが、助けて……とアリスが呼んでいるのが聞こえるんだ」
「……そうなのね」
なんの現象なのか全く理解できていない。
だというのに、フィーはそれ以上追求はしてこなかった。割と長い付き合いになってきたが、フィーのこのようなところは本当に助かる。
「それよりも、ずっと袖を掴んでいるが……」
「だ、だって! 薄暗いし! クモとかゴキブリもいるし……!」
そう。この地下空間では、薄暗い明かりしかない。そのため、手元で明かりを生み出してなんとか進行している最中である。
そして、フィーは俺の袖をギュッと掴んでいる。いや、今はもはや腕に完全に寄り添っている形になっている。
身動きが非常に取りづらいが……仕方がないだろう。
それにしても、この空間は妙に異質に感じる。それは、薄暗いという理由ではなく、感覚が鋭くなっているというか……何かを感じるのだ。
それに前後感覚がかなり怪しい。前に進んでいるように思えるが、実際は自分たちはどこを歩いているのか。
唯一の手がかりは、この脳内に時折響き渡るアリスの声だった。
しかし今それはすっかり聞こえなくなってしまった。上にいるときははっきりと聞こえたというのに、今は何もない。
また、その声を頼りに進もうと思っていたが……普通に迷ってしまった。
そうだ。ここは似ているのだ。
迷宮と構造が、よく似ている気がするのだ。
「フィー。ここは迷宮に似ていないか?」
「あ……確かに言われてみれば、感覚的に似てるかも……」
やはり、フィーもそう感じているようだった。
王城の地下が迷宮に似ている。いや、もしかすればここは迷宮に近い何かなのかもしれない。
そう考えると、攻略するのはかなり難しいか……?
「ねぇ。エル」
「どうした?」
「あれって……なんだろう?」
「灯りだな。しかし青いな」
「うん。ちょっと不気味かも」
薄暗い空間の先には、青く光る何かがあった。それははっきりと視認できるわけではない。ただ正面に青い光があるという認識だけ。
「行ってみる……?」
「行くしかないだろう」
「ちょ、もうちょっとゆっくり歩いてよー!」
そうして俺たちは、さらに深部を目指すのだった。
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