第109話 Alice in wonderland 24:予兆


「……」


 いつも通り私は、図書館で勉学に励んでいた。


 入学できるだけの学力を備えているとは言え、私はまだまだ知識が足りない。それに錬金術の技量も拙い。


 それは全て、先生を基準にしているからそう思ってしまうのだが、どうしても少しでも先生に近付きたいと私は思っている。


 だから毎日の勉学は欠かさない。


 たとえ、彼がいないとしても私はいつものように同じ毎日を過ごす。


「……ん?」


 ふと、後ろを振り向く。


 最近思うのだが、視線を感じる。


 それは初めは気のせいだと思っていた。


 しかし、その視線は間違いなく私をじっと見つめている……そんな気がするのだ。


「あれ? アリスちゃん?」

「リタさん。どうも……」


 ペコリと頭を下げる。


 リタ・メディス。


 エルゼミに所属する、フィーの従姉妹だ。


 とても明るい性格で、最近は仲がいい。珍しく私が友人、と呼ぶべき存在と認めている人だ。


「何してるの?」

「勉強だけど。いつも通りね」

「え! いつもやってるの!?」

「まぁ、そうだけど」

「すごいね! やっぱりアリスちゃんはすごいよ!」


 ニコニコと笑いながら、彼女はそう言った。


 初めは私が王女ということで、よそよそしい話し方だったが普通にして欲しいというとリタはこのように王女であっても遠慮せずに話してくれるようになった。


 私としては、王女として見られるよりもフランクに友人として接していた方が気が楽だ。


 自分の出自のこともあるので、別に同じ目線で見られることに違和感を覚えたりはしない。


 他の王族の人たちは、王族としての責務が〜、とかいうけどそんなことはどうでもよかった。


「さて。私はそろそろ帰るけど……」

「あ! じゃ、じゃあ……私も一緒しても良い?」


 依然として、彼女はニコニコと微笑んでいる。


 そんな姿を見て、無碍に断ることなど私にはできなかった。


「良いけど」

「やったー!」


 と、そう言いながら飛びついてくるリタ。


 もしかしたらこれが本当の意味での友人、というものなのかもしれない。


 そんなことを思いながら、私はリタと一緒に学院の外に出ていく。


「ねね。アリスちゃんは、先生のことどう思ってるの?」

「……どうって、尊敬してるけど」

「えぇ〜。本当にそれだけ〜?」


 俗にいう、これが恋話というやつなのだろうか。


 どうやらリタにはお見通しだったみたいだ。

 

 私は素直に自分の心情を吐露する。


「……その。す、好きだけど……」

「あー。やっぱりー! そうかな〜って、思ってたんだぁ……でも、そっか。フィーお姉ちゃんも好きだから、ちょっと複雑かも……」


 しゅんと顔を俯かせるリタ。


 フィーが先生に惹かれていることは、どうやらリタも知っている様子。


「ま、別に良いのよ。でも、リタは先生のこと好きになったらダメよ?」

「大丈夫! 尊敬してるけど、男性としては見てないからね」

「そっか。それなら良いけど」

「あ。じゃあ、私はこっちだから。バイバイ、アリスちゃん」

「えぇ。さようなら」


 大きく元気に手を振ると、リタはそのまま走り去っていく。


 その際に、後ろを振り向く。


 やはり誰かに見られている……それだけは、間違いなかった。

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