第94話 Alice in wonderland 8:春の足音
「はぁ……」
グッと背もたれに体重を預ける。
一月。
年も無事に開けて年始は挨拶回りで大変だったけど、その隙間時間でなんとか私は勉強を重ねていた。エルの教え方はとても分かりやすくて、今はほぼ自習に時間を割いている。彼も今は卒業論文の作成で忙しいとか、なんとか。
それに学院では色々とやらかしているようで……フィーが苦労しているという噂は私の耳にも入ってきていた。
「アリス様、本日は……」
「わかっているわ」
サリアがやって来たということは、そろそろ外出する時間になったということだ。窓越しに外を見ると、雪がしんしんと降っていた。もうこんな季節になったのか……と思った。
今まではただなんとなく流れる季節に身を任せるだけだった。
別に雪が降ろうが、桜が舞おうが、夏の日照りに照らされようが、秋の紅葉が舞おうが、どうでもよかった。
でも私は今はそれをしっかりと意識している。
世間一般からすれば、受験生というやつなのだろう。カノヴィリア錬金術学院に入学しようと、毎年数多くの人間が努力に努力を重ねる。中には5年以上も受験勉強をしている者もいるほどだ。
それほどまでに過酷な試験。
でも、入学した後こそ本当に大変だという話はよく聞く。
それでも多くの人間はカノヴァリア錬金術学院を目指す。その目的は真理探究などの高尚な目的が多いのだろう。でも私は、別にそんなものはなかった。
ただ彼と同じ景色を見てみたい。
そう思っての行動だった。でも不思議とやる気は出て、今もなんとか勉強を続けることもできている。筆記試験の方は過去問をやっていても、基準点を超える時が時折あったりもした。
だから私は今日もいつものように、勉学を重ねる。
「アリス様。もう時間がありません。行きましょう」
「えぇ」
ペンを置くと、そのままノートを閉じることもなくすぐに着替えて外にでる。今日はとある貴族の家でのパーティーに出席することになっている。
もちろんそんな時間があるのなら、勉強したい……という気持ちもあるが私はアリス=カノヴァリアなのだ。王族としての公務はこなさなければならない。
「はぁ……」
外に出ると、吐息が真っ白に染まる。
雪も少し勢いを増して来たのか、凍えるほどに寒い。
マフラーをしっかりと巻いて、手袋もして、上からコートを羽織っていてもこの寒さは耐え難いが……私は感じていた。
この雪がなくなれば……この先に待っているのは、入学試験だ。
それに無事に合格すれば、私は春から学生になる。
周りの人間は、私が合格することなどあり得ないと思っている。
王族の血は有しているものの、私はその中でも異端だ。だからこそ、蔑まされているのも知っている。だが……そんなのは当日になってみないとわからない。
だから私は歩みを進める。
「ねぇ、サリア」
「なんでしょうか。アリス様」
「この冬が明けたら入試がやってくるわね」
「はい。すでに手続きは済ませておりますので。ただ……あの学院は王族であろうとも、貴族であろうとも、関係ありません。入試の点数でしか、計られないのですから」
「えぇ……わかっているわ。だからこそ、もし合格すれば私の力ということでしょう?」
「はい。私はしっかりとアリス様の努力を知っております。きっと……」
「そこから先は言わなくてもいいわ」
「……失礼いたしました」
この雪の先にはきっと春が待っている。
そして私は、あの桜並木の中をカノヴァリア錬金術学院の学生として歩いている。
そんな未来を信じながら──この冬の中を進んでいく。
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