第93話 Alice in wonderland 7:冬、雪降る夜
それから私は錬金術に対して真面目に取り組むようになった。以前からは使えてはいたが、理論的な面はからっきし。そもそも、カノヴァリア錬金術学院に入学しようなどと考えたことすらなかった。
入学するのも困難だし、卒業するのはもっと困難なその学院は世界的に有名である。しかも、王族だからと言って特別な便宜など図られることない。
ペーパー試験と実技の二種類のみで、基準の点数に届かなければ不合格になる。それは相手が貴族であったとしても同じだった。
「……うん、うん。ここがこうで……」
「アリス様、そろそろお休みになっては?」
「もう少し……もう少しだけ……」
人生でここまで何かに打ち込むようになったのは初めてかもしれない。
サリアにも色々と言われてはいるのだが、私はそれでも懸命に取り組んだ。毎日毎日、ずっと積み重ねてきた。
今までは灰色の世界だった。でも、私も彼と同じ場所にたどり着きたいと思った。それが原動力になったのか、私は懸命に錬金術に対して取り組むようになった。
そんな様子を周りは冷ややかに見ていた。
私は知っていた。王城内で噂されていることを。
「ねぇ、できるわけないのねぇ」
「えぇ。絶対に無理だわ」
「そうだよなー。アリスには無理だよなー」
皆は口々にそう言っているのを、私は聞いていた。あえて私に聞こえて来るように言っているのは、本当に
今までは王城内でそう言われるたび、落ち込み、凹んでいた。
私はずっとこのままなのだろうか。
いつもそう思っていたけど、今の私には明確な目標があった。
カノヴァリア錬金術学院に入学する。
「アリスいいか。ここはな……」
「はい……はい……」
あれから王城で教えてもらうことはなかった。私たちは外で会い、彼が農作業をしている途中で分からないところを教えてもらったりしていた。
この気持ちはただの恋心だけの行動なのだろうか。私にはどうにもそうは思えなかった。ただ私は……前に、前に進みたかったのだ。
あの王城にずっと囚われているのではなく、自分の意思で前に進みたいのだと。そう思い始めていたのだと……。
「精が出ますね、アリス様」
「そうね……自分でも驚きだわ。ここまで熱心やれるなんて……」
「かの錬金術学院はかなり難関だと聞きます」
「えぇ。その難易度は流石のものね」
「実際どうなのですか?」
「……どうなのかしら。手応えはあるけど……」
「けど?」
「実際は当時にならないと分からないわね」
「応援していますよ。王城内では色々という者もいますが……私はあなたの味方ですので」
「ありがとう、サリア。今日ももう少しやるから。食器類は下げてもいいわ」
「承知しました」
外を見ると、もう雪が降っていた。
本格的に冬に入り、そして……私の入試も着実に迫るのだった。
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