第二章 The 6th Labyrinth
第20話 エルフの村にいこー
「すまないね、フィー。今うちの協会から出せる錬金術師は君たちしかいなんだ」
「……嘘だッ!!! 他にも一杯いるでしょ!!? 私、知ってるんだからねッ!!」
「……いるにはいるが、第六迷宮を攻略可能な人材でなければならない。最低でも
「エルフの村に? 何か関係があるのですか、会長」
俺はふと疑問に思う。エルフとは亜人の一種で人間に近いが、別の種族の生き物である。そしてそんなエルフたちは、カノヴァリア王国の近くに村を築いている。定期的に物資の流通などもしているので、うちの国とは仲がいい。しかし、エルフの村で何かあったのか?
「エルフの村と第六迷宮が近くにあるのは知っているだろう?」
「はい」
「実は迷宮から魔物、
「ひ、ヒィいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! こわッ!! 怖すぎでしょ!! だって、あそこの蜘蛛って……
フィーが言った
「……分かりました。フィーとエルフの村に行ってきます」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!! 蜘蛛は嫌いなのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
という叫び虚しく、フィーは結局行くことになった。
§ § §
その夜。俺たちは第六迷宮の情報整理のために、フィーの家に集まっていた。
「第六迷宮、別名……蜘蛛の迷宮。数多くの冒険者、それに錬金術師も挑戦しているが生還者はほぼいない……か」
「ううううううううううぅぅぅぅ。どうして私がこんな目にぃぃぃいい……いやだよぉ、蜘蛛はいやだよぉ……」
「あ、フィー。そこに蜘蛛いるぞ」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「ごめん、嘘」
「こ、殺すぞ貴様あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」
とまぁ、フィーの蜘蛛嫌いは異常だ。人類最大の天敵とも言っている。俺は怒り狂っているフィーを無視して、会長からもらった資料を整理する。
第六迷宮。そこはカノヴァリア王国から南に進んだ先にある世界七迷宮の一つである。また、南の方にはエルフの村もあるのは有名な話だ。エルフとは亜人類の一種で、人間とほぼ同じ姿形、知能をしているが遺伝子の配列が異なり、異形の姿をしている種である。文明レベルで言えば、人類の方が進歩しているが、亜人類たちも独自の文明を築いており、明確に対立している亜人類はいない。
だがしかし、人類と亜人類にとって敵対している存在がいる。それが魔物だ。魔物は低知能だが、獲物を狩る知能だけは高く、人類と亜人類を食べることもある。俺たちが今回向かう第六迷宮には、魔物である
「なぁフィー。
「ふん! エルなんて知らない!」
ツンとそっぽを向いてしまう。はぁ、やりすぎたか……。
「俺一人じゃダメなんだ。魔力の総量も少ないし、一人で踏破は絶対に無理だ。それにフィーは迷宮のこと少しは知っているだろ?」
「ま、まぁね。仕事柄調べることもあったし」
「頼む。俺にはフィーしかいないんだ」
「ほ、本当? 私が必要なの? エルには」
「もちろんだ。俺と一緒に行こう」
「そ、そこまで言うならいいかなぁ……えへへ」
ちょろい。最近フィーは褒めておけばどうでもなることを学んだ。あまり使いたくないが、今回は蜘蛛だからな。仕方あるまい。
「それで、
「さっき言った通りでいいんじゃない? 私も炎はダメだと思うし、電気系だとどれぐらいの出力がいいか分からないし、水は……実用性ないし」
「おっけい。それで行こう。とりあえず、メインは氷で。あとは武器防具一式とバックパックだな。食料と水分は必須だ。ま、何かあれば俺たちは転移が使えるから大丈夫だと思うが、念には念を入れよう」
「そうね……でも、本当にッ! 本当に苦手だから、いざという時はよろしくね。魔力は渡すからね!」
「任せておけ。蜘蛛は別に苦手じゃあない」
そして俺たちは翌日、早速エルフの村へと調査に行った。
「はぁ……揺れるわねぇ」
「そうだな……」
現在は馬車で移動している。基本的に錬金術が栄えている王国内はかなりの文明レベルだが、錬金術も万能ではない。そこには必ず錬金術師の介入が必要となるからだ。移動手段としては、転移も使えないことはないが魔力の消費を避けたいために馬車を選んだ。
それから数時間揺られて、俺たちはエルフの村へとたどり着いた。
「なるほど。ここがエルフの村か……」
全体的に緑が多い。木の上にも家が作られており、自然と共に暮らしているのだとよく分かる。そして俺とフィーは事前に聞いていた事務所に行こうとするが……。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
叫び声が聞こえた。村から少し外れているが、そんなに遠くない。この距離ならギリギリ、転移を使えそうだ。
「フィー跳ぶぞッ!!」
「分かったわッ!!」
そして俺とフィーは座標を指定して、そのまま転移で瞬間移動をする。
「く、来るなッ!! こっちに来るなッ!!」
「ああああぁぁああ……」
そこでは二人のエルフがいた。そしてその周囲には
なるほど。近くで見るとかなりでかい。それに5体もいると、圧巻だな。そう考えているとフィーがぶるぶると震え始める。
「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいい!!!! なにあれ!!? でかくない!!? 予想よりもデカイんですけど!!?」
「そうか? あんなもんだろう。全長6メートルといえば」
「いいから早くやって!! 私は無理ぃいいぃいいいい!」
「……はいはい」
両手を広げるようにして振るうと、俺はすぐさま5体の蜘蛛全ての脚を一瞬で凍らせて身動きを取れなくする。蜘蛛たちが「キイイイィィィイイイイ!!」と鳴いているが、うるさいので脳天に
「終わったぞ、フィー」
「ほ、ほんと?」
俺の後ろからチラッと顔を出して、
「う、うわああああああぁぁぁぁ……。エルってば、相変わらずえげつないわねぇぇぇえええ。なんか一つのオブジェクトに見えるわ、あれ」
確かに脚が凍っていて、脳天に綺麗に氷柱が突き刺さっていると少しだけ作品のように見えなくもない。
「あ、ありがとうございます! 命の恩人です!! そ、それで……あ、あなたたちは? 一体どこから来たのですか? それほどの技量ならば……もしや王国から?」
エルフの男性の方がきょとんとしながら、そう話し始める。フィーは未だに「おええええええぇぇぇ」と言っているので、俺が対応することにした。
「カノヴァリア王国から来ました。エルウィード・ウィリスと申します。こっちはアルスフィーラ・メディス。私が
「
そうして俺たちはそのまま村長の場所へと案内された。村長は中央の事務室にいるそうで、それは木の上の方にある。俺とフィーは難なく上の階へ上がると、早速村長と対面する。
「これはこれは、王国からはるばるありがとうございます。私は村長のシリル・ダンと申します」
「エルウィード・ウィリスです」
「アルスフィーラ・メディスです」
俺とフィーは村長と握手をする。ダン村長はかなり若く見える。だが資料ではこれで60歳というのだから、エルフはやはり人間とは違うのだと痛感する。そして俺たちは早速本題に入る。
「あの
「いえ……あそこまで村に近いのは初めてです」
「初めて出現したのは?」
「確か、一ヶ月前くらいでしょうか。急に村の周辺で目撃情報が出て……うちの村にも錬金術を使えるものがいますが、
「いえいえ、恐縮です。それで……迷宮ですが、探索はしたのですか?」
「いえ全く。うちの村では第六迷宮には絶対に近寄るなと言われているので。何人か無謀な若者が行ったことがありますが、生還者はゼロです。それに迷宮に入らなければ害は出ないので大丈夫と思っていましたが……」
「それが急に、
「……お願い致します。それと宿ですが、うちの娘が一人暮らしをしているのですが、かなり大きい家に一人なのでそこをお使いください。娘にはすでに言ってあるので」
「分かりました。お世話になります」
ぺこりと頭をさげると俺たちは外に出る。それにしてもフィーのやつは大丈夫なのか?
「フィー、大丈夫か」
「おええええぇぇぇ。未だにあの光景が……エル、対応ありがとね」
「あぁ……それじゃあ、行こうか」
「……うん」
村長の娘の家は、この村のちょっと外れの大きな家らしい。最近家を出たらしく、年齢は18歳。まぁコミュニケーションはフィーに任せよう。そう思いながら歩いていると、すぐに到着。ドアをノックすると、中からエルフの美女ができて来た。そう美女だ。俺はこれには驚いて目を見開いてしまう。まさかここまで左右対称、さらに薄い
「……あの、どちら様ですか?」
「私たちは村長に紹介されて来たの。あなたが、モニカさん?」
「ああ! 父の言っていた錬金術師の方ですね! どうぞ、どうぞ……」
「「失礼します」」
家に入ると、とても整っているという印象だった。しかし家具が少ない。それに少し欠けている? 部分もある。
「すいません、まだ修理中でして……」
「……なぁ、フィーこれって勝手に直してもいいのか?」
「王国は錬金術による勝手な増築はダメだけど……モニカさん、別に直してもいいのかしら?」
「え? できるならお願いしたいですけど……何分、数が多いので……」
「……なら俺がやるか。モニカさん、該当箇所だけ教えて欲しい」
「ええーっと、そこと、そこと、あそこです」
指差した場所に
「え? 終わったんですか?」
「はい。確かめてください」
「ほんとだ、直ってる。でも錬成陣は……?」
「私とフィーは錬成陣なしで出来ます」
「……も、もしかしてエルウィード・ウィリスさんですか?」
きょとんとした表情でそう言ってくるモニカ。あぁ、そういえば誰がくるかは伝わっていないのか。
「そうです。私がエルウィード・ウィリスで、こっちがアルスフィーラ・メディス」
「どうも〜」
「ええええええぇぇええ!! どっちも超有名人じゃないですか!!!? そんな人がこの村に……凄すぎて目眩が……」
どうやら話を聞くと、モニカは錬金術が得意でいつかは王国に上京して学院に入学したいらしい。独立しているのもその一環だとか。俺とフィーを知っているのは錬金術師として当然だと言っていた。
そして食事。王国のものと違って、簡素なもの。農作物が多く、これは楽しみだ……パクリと一口。
な!!? これは!?? このジャガイモ、にんじん、キャベツ、レタス、などなど全てがかなりの高水準で育てられている。これはうちの農家に匹敵するぞ!!?
「う……美味いッ!!! モニカさん! これはどこで育てて……」
「あ、私が作っているんですよ? お口にあったのなら幸いです。それとモニカでいいですよ、私もエルさんとフィーさんと呼んでもいいですか?」
「も、もちろんだ! それよりもこれだが……」
それから俺はモニカに詰問しまくった。野菜の製造方法、栄養剤は何を使っているのか、収穫のサイクルは、などなど。
そしてその夜、フィーの機嫌が妙に悪かったのは謎だった……。
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