恋せよ女の子
「その人と結ばれるなんて、天地がひっくり返っても無理なんだ……」
まさか彼女の理想って、紗菜ちゃん? いやいやそんなことは無いんじゃないか、
ベットイン未遂事件の後、俺に妹への想いを吐露してくれんたんだ……
香菜ちゃんが自分に振り向いてくれる事は絶対にありえないって。
自分に都合良く考えるのはお兄ちゃんの悪い癖だって、
天音にも良くたしなめられる、不注意に俺が紗菜ちゃんの想いを伝えて、
もし間違っていたら、最悪の事態になってしまう……
「あっ、またシリアスな顔になってる、悪い癖だよ!」
予想外の事にフリーズしている俺をみかねて、彼女がそう言ってくれた。
「せっかくの美人さんが台無しになっちゃう、沙織ちゃんは私の目標なんだから」
香菜ちゃんが飛び切りの笑顔で答えてくれた。
「香菜ちゃん、俺が、いや沙織が目標って?」
「そうだよ、合宿で初めて会った時から決めていたんだ!
香菜がもっと大人になったら、沙織ちゃんみたいになりたいって……」
「でも俺は、まがい物の……」
花井住職に女装を見破られた時、指摘された言葉がトラウマになってしまう。
「純真な姿には男も女も関係無い、観音様に性別が無いのと一緒だ、
信心する者が決めればいい……」
巫女舞の続きで、彼女に神様が降りてきたのかと思うほど、
しっかりとした口調で香菜ちゃんは断言した。
「って、これもお父さんからの伝言なんだ……」
いつもの悪戯っ子の表情に戻ったまま、ペロッと舌を出しておどける彼女。
さすが師匠! 花井師匠は全てお見通しだ、最初から分かってくれていたんだ。
だけど、疑問が残るのは何故、母の事を知っているのか、
俺が幼い頃、他界してしまった母に。
「この合宿が無事終了したら、宣人君と二人っきりで
話したい事があるとお父さんは言っていました」
花井住職が俺と話を、一体何なんだ?
「宣人お兄ちゃんに、何度もちょっかい出してゴメンなさい……」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女、
「もしかして、全て花井住職の指示でやったの?」
「半分、当たりで、半分、ハズレかな……
確かに、宣人お兄ちゃんの煩悩を試しなさいって言われたけど、
殆ど、私のアドリブで誘惑したんだよ!」
香菜ちゃんの将来が末恐ろしい、俺は殆ど陥落寸前だったんだ……
あれはロリ美少女の波状テロ攻撃と言っていいだろう、
今更ながら自分の鋼な精神力を褒めてやりたくなる。
「でも、ちょっとつまんなかったな……
宣人お兄ちゃんと、もっと色んな事したかったかも!」
大丈夫、太鼓判を押そう! 沙織ちゃんよりも大人のお姉さんになれるって。
「なんて、また困らせちゃうね! 本当は今日一日、一緒に修行して
香菜、感動したんだよ、あの雑巾掛けレースでの頑張りに」
「宣人お兄ちゃん、もとい沙織ちゃんの一生懸命な姿に……」
すっかり、いつもの香菜ちゃんだ、やっぱり小悪魔な彼女も捨てがたいが、
今の俺にはこっちの香菜ちゃんが良いんだ。
「絶対、優勝しようね、宣人おにいちゃん!」
「おう! 完全優勝だ、香菜ちゃん!」
「あっ、沙織ちゃんを忘れちゃ駄目!駄目」
そうだった、明日からまた沙織ちゃんに戻らなきゃ!
「そうだわ、完全優勝よ、香菜ちゃん!」
言い直しながら、二人とも笑顔になる、
俺は思いきってある提案をしてみる事にした。
「約束して欲しい事があるの、私達、歴史研究会が完全優勝したら、
私も大好きな人に告白するから、香菜ちゃんも理想の人に気持ちを伝えて」
観音様に性別はない、人を好きになる事も同性だって関係ない筈だ、
俺はこれまでの経験で性別の垣根なんて、ちっぽけな問題なんだ、
男装女子、女装男子 クロスジェンダー そして同性を好きになる事、
俺の突然の提案に、戸惑いの表情になる彼女、
「あれっ? なんでだろう、嬉しいのに涙がこぼれちゃうのは……」
香菜ちゃんは泣いていた、押し殺していた感情が一気に解放された様だ、
そして迷いを振り払うようにゆっくりと顔を上げた。
「花井香菜、約束します、大好きなあの人にこの気持ち……
絶対に、絶対に告白する事!」
恋する女の子は無敵だ……
どんなに高価な宝石よりも輝いて見える、
彼女の決意表明を聞いて、よりいっそう優勝への気持ちが高まってきた、
待ってろ! 土偶男子、三内丸山遺跡、絶対に優勝するんだ!
俺の脳裏に、また鮮明なビジョンが浮かんできた、
巨大建造物の舞台で優勝の狼煙を上げるのは、
俺達、歴史研究会なんだ。
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