仁義なき……
窓の外では相変わらず激しい雨が降り続いている……
萌衣ちゃんは安心したのか、何時しか眠り込んでしまったようだ、
俺の手を握ったままなのが、彼女の深い不安を感じさせた、
彼女を起こさない様にそっと手を解いた、軽い寝息を立てる様は
まるで子供みたいだ……
俺はフローリングの床に毛布を借りて横になる。
固い床では中々寝付けず、俺は彼女の境遇について想いを巡らせた、
幼い頃、両親を亡くし、その原因が自分のせいだと思い込んでいる、
どれだけ苦しんで来たんだろう……
その胸中は計り知れない、これまでの強がる態度が全て悲しみの裏返しで、
虚勢を張っていないと彼女は圧し潰されたのかもしれない、
俺は何も分かっちゃいなかった……
俺に何か出来ないだろうか、少しでも力になりたい……
その時、胸ポケットに入れた携帯が振動で着信を伝えてきた、
こんな夜中に誰だ? 天音ではないはすだ、
天音には具無理に泊まると、先にメールを入れてある、
以前の無断外泊で心配を掛けたからな。
「はい、猪野です」
萌衣ちゃんを起こさぬよう小声で話す、
「宣人くん、夜分遅くにゴメンね……」
具無理のマスターだ、何故こんな時間に?
「多分、萌衣は雷を怖がって、宣人君に迷惑を掛けただろう、
悪かったね……」
「いえ、迷惑だなんて、今は落ち着いて眠っています」
「そうか…… 実は宣人君には謝らなければいけないんだ、
君に店番を頼んだのも、偶然じゃなかったんだよ、
バイトを頼む電話で、君にしか頼めないと言ったよね……」
えっ? 俺にしか頼めない事って……
「萌衣が君に初めて会った夜、ひどい言葉使いに驚いただろう、
だけど萌衣があの態度になるのは、家族以外では珍しいんだ……
まあ、あの言葉使いも俺のせいなんだけどね」
マスターが電話越しで苦笑する、意味が判らない俺。
「萌衣の部屋に居るのなら壁を見てごらん」
マスターに言われるまま、携帯のライトで壁を照らす俺、
「!?」
ライトに浮かび上がるのは強面の男性、背中に入れた倶利伽羅紋紋
驚きで腰が抜けそうになる。
壁に貼られていたポスターは、アイドルの物ではなく、
昭和の任侠スターの面々だった……
とても年頃の女の子の貼る物では無い。
「驚いた? 両親を亡くした萌衣を引き取り、親代わりに育てたんだ、
だけど、萌衣はその年頃の子供が見るTVやアニメでは無く、
俺の好きだった昭和の任侠映画や、漫画をいたく気に入ってな……
あいつの理想の男性は研さんなんだ」
有名な任侠スターの名前を出すマスター、
萌衣ちゃんの理想の男性って、男は黙って系なの?
でも狂犬モードのオッサン口調は叔父貴系だけど……
「両親を亡くしたショックから、現実逃避したかったんだろう、
自分と縁の無い世界、任侠映画の主人公みたいに強くなりたかったのかも」
何となく分かる気がする、天音が男装女子になった時、言っていたっけ、
「この格好をしていると、普段の自分じゃないような気分になるの」
天音の言葉が蘇る、萌衣ちゃんも変身したかったんだ。
「萌衣ちゃんがその態度を見せるのは、何で俺なんでしょうか?」
「萌衣は君に亡くなった父親を重ねているのかもしれない、
あのスパリゾートの夜、俺の言った言葉にこだわっていたからね、
宣人君も同じ匂いがするってね」
お風呂で萌衣ちゃんに言われた事だ、彼女は確かめたくなったって。
「宣人君、こんなお願いをするのはぶしつけだと思うが、
萌衣の支えになって欲しい……」
マスターが、孫を思うお祖父ちゃんの顔を覗かせるのが伝わってきた、
「明日、萌衣を、ある場所に連れ出して欲しい……」
「えっ、でも店番は?」
「俺が戻れるようにするから大丈夫だよ」
具無理のマスターが、その場所について説明してくれる、
電話を切った後、ベットで眠る萌衣ちゃんの寝顔を見ながら考える、
萌衣ちゃんにとって、どんな意味がある場所なんだろうか……
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