shoothing star
「フギャア!」
「!?」
突然、引き裂くような子猫の鳴き声が境内に響き渡り、
俺達は慌てて身を離しながら、声の方向を見る、
「ヒュ~ヒュ~、お熱いね、お二人さん……」
そこには子猫の首を手荒に掴み、ブラブラと左右に揺する人影が立っていた……
一歩、また一歩と前に歩み出したその顔が、少しずつ、月明かりで明瞭になる。
野球帽のつばを後ろ向きに被った、ふてぶてしい表情、この顔には見覚えがある、
「お前は!」
俺の通う小学校でも札付きの不良で、上級生の鈴木慎一だ。
その後ろに隠れるように、弟の雄一が顔を覗かせるのが見えた……
奴の乗って来た自転車の前籠には、入り切らない位のお菓子が
詰め込まれていた。
お麻理の話していたマナーを守らず、根こそぎお団子取りのお菓子を
持ち帰るグループは彼らに違いないだろう……
「こいつ、猪野って言って、五年生でも特に生意気な奴だよ、兄貴!」
告げ口するように話すこいつは、俺と同じクラスで、事あるごとに
俺にちょっかいを出してくる、揉め事が嫌いな俺は無視しているが、
日に日に嫌がらせがエスカレートして来ている事に、辟易としていた。
「こいつが女たらしの猪野か! 雄一、お前の言う通りだな、
今も女とベタベタしていやがる」
「そうだよ、兄貴! いつも女としか遊ばないし、
とにかく男の腐ったような奴なんだ!」
雄一のずる賢い表情が、妙に輝くように歪むのが分かった……
「ほう~ ますます気に入らねえ野郎だな!
一つ、シメて身体に教えてやろうか……」
片手の子猫を更にブラブラさせながら、ますますサディスティックな表情になる、
子猫が苦しそうに身をよじり、その小さな前足を虚空に揺らす……
「非道い……」
柚希が悲痛な叫びを上げる、
「子猫を離せ!」
言うか否や、慎一に飛びかかる、一対一なら上級生とは言え、勝てるはずだ、
子猫を弄ぶ慎一に、あと一歩という間合いで俺の身体は突然、地面に倒された。
「何だ!?」
建物の脇に隠れていた慎一の仲間に、足払いをされ、地面に組み伏せらてしまった、
「汚えぞ!、正々堂々と戦え」
無様に地面の土を舐める俺に、慎一はヒキガエルのような醜悪な笑みで
こう言った……
「勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあ! 喧嘩に汚えも糞もあるかよ」
「糞!離せよ!」
もがく俺の狭い視界の隅に、柚希が立ちすくみながら、その両頬に
ボロボロと涙を流すのが見てとれた……
「やっちまえ!」
慎一の号令で、組み伏せていた取り巻きに脇腹を次々に蹴り上げられる、
「ぐあっ!」
余りの痛みに情けなく声を上げてしまう……
「やめて!やめてあげて……」
柚希が必死に懇願するが、聞き入れる連中ではない、
抵抗出来ない俺の手や頭を踏みつけ、蹴り上げ、更に暴力は続く……
多勢に無勢だ、勝ち目は無い……
近寄ってきた雄一が、痛みで意識が遠のきそうになる俺の頭を
髪の毛を掴んで無造作に持ち上げる。
「どうだ、兄貴には敵わないだろう、そうだ、俺の靴を舐めて許しを請えば
勘弁してやらなくもないぜ……」
雄一のくそったれな提案に、俺は無言で答え、言葉の換わりに唾を吐きかけた、
「この野郎!舐めやがって」
顔を怒りで歪ませながら、兄貴に助けを求める。
「兄貴、こいつボコボコにしてよ!」
「分かった、分かった、その前にこいつらを処分してからにしようぜ!」
まさか? 嘘だろ……
慎一が片手に持つ子猫をダンボールに戻し、数え始めた、
「一匹、二匹、三匹、四匹。五匹、」
「丁度良い、お前ら一匹ずつ猫を持て、」
慎一が子猫を一匹持ち上げ、反対の手をグルグル回し始めた……
「野球の遠投の練習だ! ボールは猫だけどな、クククッ」
神社の裏手には川が流れている、奴らは子猫を川に投げ捨てるつもりだ。
子猫ではこの時期の川に投げ込まれたら、ただでは済まないだろう、
あまりの怒りに頭に血が上るのが分かる……
「やめろおっ!」
声には出るが、痛みで身体が動かせない……
「畜生!」
無力な自分にこれほど腹が立った事は無い……
やつらが子猫を片手に川に向かって整列する、
「猫ボール、ピッチャー振りかぶりました!」
ふざけた言い回しで慎一が子猫を持った右手を振り上げる、
もう駄目だ……
「やめて!」
諦めて目を閉じかけた次の瞬間、信じられない光景が展開されていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます