潮風のメモリー
俺達の立ち寄った場所は千葉県の最南部に近い人口四万人の街にある。
東京湾に面した風光明媚な観光地だ。
今朝は天気も良く、土日となると都心からの観光客も多いが、
俺達は時間帯を遅めに出発した為、渋滞にも遭わずスムーズに到着出来た。
ダウトバーガーでお腹を満足させた後、その日の目的地の前に、
立ち寄ろうと思った場所を目指してバイクを走らせた。
弥生ちゃんとのタンデムを想定して、親父が後部キャリアを
変更してくれた、いつものキャリアでは無く、背もたれ付きの
キャリアだ、これも天音とのツーリングを夢見て購入したそうだ。
天音に言ったら、またお父さん、無駄使いしてと怒られそうだが、
親父の気持ちは男の俺には理解出来る、
全てとは言わないが、男性には趣味の物を集める癖が有り、
一つあれば足りるものでも複数、購入してしまう……
要するにいくつになっても子供なんだよ、と親父が苦笑する
顔が浮かんでくる。
親父の無駄使いのお陰で、弥生ちゃんは快適そうに見える。
バイクのタンデムに慣れていないと、短距離でも身体に力が入り、
クタクタになる人も多いが、適度にバックレストに身体を預けられる。
街を過ぎ、ワインディングを軽快に進んでいく、
メッキミラーのリムに太陽の日差しが幾重にも差しこみ、
反射した光が俺達の顔に当たる、スモークシールドで無ければ、
目が眩みそうだ……
「先輩 何処に向かっているんですか?」
「まあ、俺に任せて」
次の瞬間、一気に視界がクリアになる。
「わあっ! 海だ……」
バックシートの弥生ちゃんが歓声を上げる。
それもそのはずだ、高低差のあるこの場所から見る
雄大な太平洋は、先程の街中から見るのとは別物だ。
海からの潮風が心地よい……
この景色を弥生ちゃんと共有したかった。
高校に入り、無気力な生活を送っていた俺に、親父はバイクを勧めてきた、
最初は乗り気ではなかったんだ、
子供の頃、親父のバイクに無理矢理乗せられた事がある、
まだ五歳くらいだった俺はすごく怖がったそうだ……
そのトラウマか、あまりバイクが好きにはなれなかった。
気分転換にどうだと、強く勧められ免許を取ったんだ。
免許取得後、親父のバイクを借り、当てもなく出掛けた、
色んな道を走る度、塞ぎ込んでいた気持ちに光が差すように思えた、
バイク乗りには面白い習性がある、一人で訪れて感動した場所に
大切な人を連れて行きたいと強く思う感覚だ。
俺の大切な人にこの景色を見て、同じように感動して欲しい。
それが出来た事に、俺は心から嬉しい気分になった……
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