氷の世界

兄貴の葬儀から二週間が過ぎた……


俺はもう親父を悲しませるような事はしないと決めたが、

普段の日常に戻れずに居た。


学校はとても行く気になれず、引きこもりの様な生活を送っていた。

朝、天音と親父が出掛けたのを確認してから、

リビングに降りて、一人の朝食を取る、

その後の俺の一日はテレビを見たり、ゲームをしたり、

おおよそ、生産性とはほど遠い事をして日々を過ごしていた。


自分と同年代の事を思い出すような番組は見れず、

小学生対象の教育テレビを主に見ていた。

テレビゲームもロープレはやる気が起きず、

車のゲーム中心にやり込んでいた。


一人で走る、タイムアタックモードばかり、

繰り返し、繰り返しリトライしていた。


そのモードは他車は現れず、自分自身のゴーストとタイムを競う、

ずっと同じ、コースを走っている内に、

自分の前の速度に縛られているモードだが、

そのルーティーンが落ち着きを与えてくれた。


自分のゴーストの何秒か遅れでコーナーに侵入する。

コーナーの脱出でゴーストを抜き去る……

その繰り返しで、一日が終わる。

何時しか、全てのランクでトップタイムを取得してしまう。

そんな無意味な中に、俺にとっての救いがあった。

何かに没頭していないと、崩れ落ちてしまいそうな時期だったんだ。


そんな日々を送っている俺を見かねて、お麻理は度々、学校に誘いにきてくれた。

登校時、家に回り道してくれたんだ。

だけど、俺はお麻理の優しさに応えることが出来なかった……

そんな俺を、叱りもせず、気が向いたら登校してね、と言い残して

いつも立ち去って行った。


天音と親父も、俺に接する時、ごく普通に対応してくれた。

そんな優しさに包まれたお陰で、中学、高校入学を経て

今の俺が居れた。


不登校は無くなってきたが、全てにおいてやる気が起きず、

まるで生ける屍のような高校生活を送っていた。


そんな時、天音の男装女子騒動が起こったんだ……

そこまで思い返して、俺は天音の行動の一端を理解出来た気がした。


俺を元気付ける為じゃないのか……

天音の突拍子の無い行動は?


確かに今の俺は天音の為に過去を忘れて、奔走している。

兄貴の事を忘れた訳じゃない、

でも、今の自分は何処に向かいたいのだろう?


自分の気持ちが分からない……

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