お茶を召しませ

「ようこそ! 歴史研究会へ!」


 外観から想像したより広いスペースの

 部室の中には天音と、もう一人女の子が居た。


「あっ、お兄ちゃん、紹介するね、

 部長の朝霞真菜あさかまなさん、三年生の先輩よ」


 陶器のように白い肌、無造作に後ろでひっつめて編みこんであるが、

 艶やかなで長い髪の毛、首筋に白いレースの付いた紺色のカーディガン。

 控えめな髪止めのアクセサリー、 育ちの良さが滲み出ているような、

 柔らかな雰囲気が全体から、伝わってくるような女性だ。


「はじめまして……」


 見た目どおりの可愛い、いや、可憐というのがピッタリの、

 良く澄んだ声で、彼女は挨拶をした。


「天音さんから、いつもお兄様の事は伺っていますよ、

 自慢のお兄ちゃんだって……」


 えっ、 この俺が自慢の兄? 恥ずかしいの間違いじゃないの。

 天音の方を見ると、照れくさそうに下を向いている。


 俺が最初の問題を口にする


「ところで他の部員は?」


「歴史研究会は、上級生が卒業で抜けてしまい今は私たち、二人だけです……」

 そうだ!。コンテスト参加条件の人数があった。


「大会の参加条件は何人なの?」


 真菜さんの表情が曇る。


「最低、六人です」


「それじゃあ、全然足りないな……」


 あと一ヶ月で部員を集めて、入賞できるようなパフォーマンスを

 習得出来るだろうか?。

 時間が無さすぎる……


「大丈夫だよ! お兄ちゃん、みんなで部員を集めれば」


 天音が努めて明るく答える。

 難しいのは天音も分かっているはずだ……


 重い沈黙が三人の間に流れる。


「まあ、お茶でも煎れましょう」


 真菜さんが携帯用の煎茶セットでお茶を用意する。

 結構、本格的だ。


「宮崎屋の大福餅もありますし、どうぞ召し上がれ」


 高校の近所にある、隠れた銘店のお茶菓子もある。

 この人はかなり通だな……


「結構なお手前で」


 天音が上品な所作で答える。

 俺は作法が分からず、器をグルグル回す。


 天音が訝しそうに、俺の動作を横目で見ている。

「我が、歴史研究会は由緒ある部活動で、全盛期には

 部員数も百名近く、在籍しておりました」


 お茶を楽しみながら、真菜さんが語り始める。


「活動内容は史跡探訪、各年代の研究報告会、当時の生活体験

 各年代の制作方法を踏襲した、料理、工芸品をボランティアにて

 販売する即売会、等、多岐に渡る活動を行って来ました」


「ただ、今では……」


 真菜さんが言葉を詰まらせる。


「朝霞先輩……」


 天音がすべて理解したという表情で、真菜さんのそばに寄りそう。


「お兄ちゃん……」


 すがるような眼差しで天音に懇願される。

 その瞬間、自分でも驚いた行動に出た、


「わかったよ、何とか部員を探そう!」


 俺の頭とは正反対の言葉が口をつき、思わず驚く。


「二人も協力してくれるよな?」


 真菜さんの落ち込んでいた顔が、とたんに赤みを増し、

 柔和な笑みが溢れる


「ありがとうございます!」


「ありがとう、お兄ちゃん!」 


 二人が喜んでくれたのは良かったが、

 勢いにかまけて大変な、安請け合いをしてしまった気がする……

 短時間で、あと四人を入部させなければコンテスト参加は絶望的だ……

 そして、制服自由化もパアだ。

 だんだん追い詰められて行く……


 どうする、俺? 

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