孤独な星たち
赤城 良
孤独な星たち
星たちは輝いているが、一つ一つはとても離れている――。
まるで僕たちのように――。
暗い夜の闇の中で、手探りして見つけた彼女の手は少し冷たかった。繋いだ手で、何だかお互いの思っている事が分かる気がしてた――。
繋いでいるうちに少しずつ温かくなってきた彼女の手。止まらない鼓動の脈打ちが彼女に聞こえてしまうのではないかと僕は怯えていた。頭の中でモヤモヤと膨らむ想像――。
やがて少しずつ汗ばみ始める手。月と星の光と小さな電灯だけが僕らを照らしていた。夜明けが近くなって朝を告げる太陽がやってくる。太陽から月と星は逃げるように去ってしまう――。
僕は彼女とさよならした後、一人の切ない帰り道を歩きながら朝と夜の境目を見た。眠気が僕を襲ってきて、瞼はかなり重く圧し掛かる。どうやら今日も夜は朝から逃げて行った――。
ベッドに飛び込んで夢の世界へとドライブする。フワフワとした羽毛の枕に頭を明け渡した僕は、彼女の事を思い返した。彼女との出会いは三月のまだ寒い真夜中だった――。
僕は夜、両親がいないので何処かに出かけては町の新しい何かを探すのが楽しかった。夜の暗闇は、昼間輝くものを黒く染めてしまう。それは世界が変わったように感じた。不思議な世界。灯りの少ない闇の中。これを恐怖という人もいるけど、僕にしてみたら自分と世界が一つになっている気がする――。
僕は何かから逃げたくなったら星が綺麗に見える丘へ行く。彼女もそうだ。辛いことがあれば丘に上がって空と大地を見渡す。一つなのにどこか離れているような空と大地。この中で僕たちは生きていて、今誰かが生まれたり、亡くなったり、憎しみあったり、愛し合ったりしている――。
人々は今この時でも、一人一人の物語を生きている。道をすれ違った人、隣で信号待ちしてる人、ふと目に入った人でも、誰もがみんなその心の奥まで触れることはない。語り合うのは自分と繋がりを持った人たちだけ。もし話したら自分を理解してくれる人もいるかもしれない。でも、自分を見せる事はあまりにも怖いことだ――。
そうでしょう? みんな本当の自分の気持ちを出してない。自分を守るために殻に閉じこもっている。言葉で理解してくれる人もいる。それだけでは理解できない人もいる。自分の気持ちを言葉で言うのはとても難しいし、自分では分からない自分の心の暗い部分がある――。
色んな出会いや経験から少しだけでもみんな大人になっていく。遠く回り道してしまう時もある。また同じような過ちを繰り返してしまう子供だから、自分や相手が傷ついてしまうかもしれない。それに気付いた時にはもう遅いってことがある。後悔だ――。
みんな誰かと繋がって分かりあっていたい気持ちがあるはず。でも、誰かを好きになったり愛して生きることは怖いことだ。どうしてその時に叶わなかった気持ち達は、終わった後になってからじゃないと伝わらないのだろう。思い出だけが笑ってる――。
でも、多くの星が集まらないと美しくはない。だからみんな誰かと一緒にいたいんだ。輝きを増すために――。
僕は夕方になってようやく目が覚めた。やっと仕事の休みが取れたばかりだったから、疲れで余計に眠り過ぎてしまったようだ。二日しかない休みの昼間を寝て過ごしてしまうのはかなり勿体ない。今でも夜の丘で彼女に会っていた事を思い出す。あれから四年も経った――。
当時では分からなかったこと。自分が見えていなかった彼女の事もようやく理解できる経験をした。傷つけてしまった彼女の事を忘れようと努力しても無理だった。軽く雑談を交わす友達に良く言われるセリフがある。それは僕の心の的を射ている――。
「お前って毎回同じようなタイプの女と付き合うような?」
自分では気付かないで、彼女の幻影を求めているのだろう。四年の時を費やした様々な経験を足し算して後悔のない最高な恋をしたい。でも、あの日から刺さってる棘が抜けないでいた。痛みのない恋なんてないからだ――。
自分の思っていた本当の気持ちを言えぬまま月日だけが流れた。彼女は僕の事を忘れたかもしれないし、傷は癒されたが忘れてないかもしれない。人との繋がりって離れたり、寄り添ったりを繰り返すものだ。世の中狭いなぁっと感じることがある――。
ここが小さな田舎だからかもしれないけど、もう会わないと決めていても勝手に風の噂ってものが耳に聞こえてくる。耳を塞ごうとしても聞こえてくる話に僕はいつも戸惑うだけだ。彼女も色んな経験から大人になっているのだろう――。
どうしてか、また会えたらと思ってしまう僕。そしたら昔ではできなかった互いに向き合うことができるのかな? なんてバカな考えがたまに浮かぶ。みんなそれぞれ通り過ぎてく過去の自分がいて、未来の自分を作っていく。いつまでも引きずっていると、すぐに時間だけ流れて歳を重ねて老けていく――。
僕は外を見た。強い雨が地面とぶつかりあっていた。携帯をチェックしたが、男友達と先輩からの着信があった。今日は特に誰かに会いたいとか遊びたい気分でもない――。
僕は車に乗り込んでドライブに出かける。雨の日のドライブは、昔していた夜の散歩と同じくらい気持ちが良い。一人でのドライブは寂しい気持ちがないわけではない。でも、不思議と自分の考え事がまとまったりする――。
休日が終わりまた忙しい一週間が始まった。それと風の噂が耳に勝手に入ってきた。彼女がこの田舎に帰ってきたらしい。僕はふとあの丘の景色とあの時のままで変わらぬ彼女の姿を思い浮かべた。彼女は傷ついた心で星屑を見ている。僕はなぜかそう思った――。
彼女がいるか分からないのに、僕はあの丘に向かった。久しぶりに自分の住んでいる町を見た。コンクリートでできた分譲マンション、やたらと増えた家々の灯り。変わり果てたその景色を見て僕は思った――。
友達や話したこともない同級生の中には結婚や同棲、大学に行ったり、仕事してたり、はたまた自分の夢を目指して頑張ってる人たちがいる。それを考えると自分だけが世界から取り残された気分になる。何より自分はちゃんとした大人になっているのだろうかと自問自答する。答えは出ない。出せない。出したくないのかもしれない――。
この丘に来るはずのない彼女を今僕は待っている。太陽のように自分で光を出す恒星は、何年も何年も輝き続けるのだと言う。それが夜空に輝く星だそうだ。みんな空いた片割れを埋めようと必死にもがいてばかりいる――。
でも、少し心が暗闇に落ちてしまっても大丈夫。落ちたなら這い上がれば良いだけだ。自分次第で物語は大きく変わっていく。星たちが迷える心に勇気をくれる――。
誰かの気配がして僕は振り返った――。
孤独な星が二つ――。
丘の上で世界を見ていた――。
朝に負けないように――。
夜は静かに逃げて行った――。
僕たちを残して――。
孤独な星たち 赤城 良 @10200319
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