たった一度、叶えられる願い

赤城 良

たった一度、叶えられる願い

いつから彼のことを好きになったのかと聞かれれば、一目見た時からと私は答える


それは嘘だけれども


誰もが振り向くような美青年でもなければ、誰にでも優しい男でもない


どちらかといえば、好みの顔でもなければ、優しくもない


それでも、彼に惹かれたのは何故かと聞かれれば、私を抱きしめたからと私は答える


それは嘘だけれども


不機嫌そうな顔でずっと一緒にいてくれる彼に、私は恋したのだ


私が彼に持っているものを見せてと言ったら、彼は何も答えてくれない


私がご飯食べたいと言ったら、彼は何も答えてくれない


それでもね、彼の良い所を私だけが知っている


泣いている私に彼は私を抱き上げて初めての笑顔を見せた


その時、私の心臓は鼓動が早くなり、爆発しそうになった


彼の目に自分の姿を見るほど見つめた


彼が泣いていた時があった


理由は分からない


私は恐る恐る彼に近づいて、彼の頬を流れる涙を舐めた


すごくびっくりしていたけれど、私はやめることなくそれを続けた


いつの間にか彼は笑ってくれた


その笑顔を見て、私はずっと一緒にいたいと思った


私を好きになって欲しいと思った


でも、そんなことできないのは解っているの


だって、私は人間じゃない


私は彼の隣にいる女性の猫だから


いつの間にか彼は彼女の部屋に来なくなった


いつの間にか違う男の人が部屋に来るようになった


私は彼に会いたかった


だから、私は願ったの


もう一度、一目あの人に会いたいって


そうしたら、窓の外にいる猫に言われたの


満月にお願いをしてごらんって


願いを一つだけ叶えてくれるよって


私はずっと満月を待った


ずっと


ずっと


ずっと


待った


そして、満月にお願いしたの


もう一度、一目あの人に会いたいって


そうしたら、満月が言ったの


――生涯に一度だけ叶えられる願いをそんなことに使うのか?


それでも良いの


私は彼に会いたいの


――今夜だけ会わせてあげよう


私はいつの間にか彼と一緒にいた


会えただけでもすごく嬉しかった


彼は私とほとんど同じ目線だった


その目に見つめられるのがすごく嬉しかった


だから、どれだけ彼のことを好きなのかを私は心残りがないように言ったの


私は知ってるよ


あなたが我慢してたことも


あなたが泣いていたことも


あなたが誰にでも優しいわけじゃないことも


あなたが彼女を好きなことも


彼は泣いてしまったの


だから、私は彼の頬を流れる涙を舐めた


しょっぱくて


悲しい味


さよならを言いたくて


また会えて嬉しかったと言ったら


私はいつの間にか部屋に戻っていた


それから不思議なことが起きたの


彼女の隣には彼がいたの


また二人は一緒にいたの


私は嬉しかった


もう一度彼に会えて


何度でも会えるのかな


私を抱きしめてくれなくても


私のご飯をくれなくても


私のことを見てくれなくても


それでも良いの


私のたった一度、叶えられる願いは


最高の形で叶ったから

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