4-13 ウインド・ダイス【5】

「サイコロは、我が振ろう」


 いつもの姿に戻ったロンロンは、そう言った。2ターン目は、ロンロンがサイコロを振る担当に決まった。

 ロンロンは、俺たちの台座の上に大サイズのサイコロをセットした。

 続いては、サイコロの目の予測。


 お互いのチームがヒソヒソ声で、サイコロの予測を開始した。

 2ターン目は、ピエロ&ドラゴンチームがサイコロを振る番である。

 よって、ラビューとロンロンは、風の「強」「弱」をどちらにするか、とサイコロの「目」の予測の2つの事象を決定しなくてはならない。


 しばらく相談の時間が続き、両チーム話し合いが終わった。

 両者、中サイズのサイコロのセットを終えた。


 それを確認したロンロンが、台座に魔法を込めた。


 シュゴッ


 サイコロは勢いよく飛んでいく。

 その高さは…………、胸ほど。

 ロンロンは、「弱」の風を選んでいた。


 続いて、両チームが選択をした目が明らかになる。

 ラビューとロンロンが選んだのは、「2」の目だった。


 「弱」の風で最も出る確率が高い「1」の目を、あえて外したようである。

 「弱」の風で「2」の目が出る確率は、25.6%。

 50.4%の確率を持つ「1」の目の半分ほど。


 それを理解した上で、ラビューとロンロンはあえて「2」の目を選んだ。

 2人は、2ターン目にして早くも勝負に出ていた。


 そして俺は、2ターン目の行く末を決める、もう一つの需要な要素に注目をする。

 それは、相手チームが選んだサイコロの目である。


 果たして、ブリュードとチューンは、何の目を選んだのだろうか。

 こちらチームにとって、「6」の目は最高。

 多くのポイントを失う可能性が高い。

 「1」の目は最悪。

 相手の方が多くのポイントを手にするリスクがある。


 サイコロの目は…………、「2」。


 まさか。

 俺は、愕然とさせられてしまった。

 ブリュードとチューンは、ラビューとロンロンが選んだサイコロの目と被せることに成功をしていたのだ。

 1ターン目とは立場が逆転。

 サイコロの目によって、ポイント差は絶対につかない。

 ラビューとロンロンの心の動きを読み取られ、こちらが有利なターンを見事に潰されてしまった。


 敵チームの予測の目を見たラビューとロンロンは、驚いたようなリアクションを見せる。やられてしまったのだから。

 ブリュードとチューンは…、あまり喜んでいるようには見られなかった。

 むしろ、向こうチームとしては「2」の目を予測するという、リスクをとった選択が被ったことに対して、気が動転しているように見えた。

 サイコロの目を見てびっくりしたのは、お互い様だったのだ。


 びっくり仰天は終わらない。


 宙を舞い、テーブルの上に落下してきた大サイズのサイコロが出した目は……、なんと「2」。

 両者的中。

 仲良く、10ptを手にしていた。


 2ターン目が終わり、各チームのポイントは以下のようになった。



「ピエロ&ドラゴン」チーム  :  20pt

「カラーギャング」チーム   :  20pt



 「ピエロ&ドラゴン」チームは、1ターン目に作ることができた優位性を、2ターン目で潰される結果で終わった。

 ポイント差はつかなかったにせよ、2ターン目は、「カラーギャング」チームの実質的勝利だと言っていいだろう。


 少しの間、沈黙の時間が続いたのち、驚きの世界から帰還したブリュードが口を開いた。


「…ハハハハ。まさかまた引き分けだとはな。だがな、こっちのチームが一本取ることには成功したみたいだ。だがな…、俺たちは、一本取ったくらいで、お前らのことを挑発したりはしないぜ?あれは、お子様みたいで無様だったからな。俺らは紳士な態度で、このターンを終わらせることにするさ」


 そんなことを言いながら、「挑発しないという名の挑発」をぶつけてきたのであった。


 ふん。

 そんな挑発、俺らには効かないぜ。


 カジノディーラーとして、冷静さを保つことの重要性は、しっかりと理解している。挑発に乗ることは負けを近づける。

 先ほど、ラビューとロンロンが見せたように、むしろ挑発はこちらの専売特許である。

 劣化コピーを見せられたところで、本物は動じないのである。

 ゲームをプレイしているラビューもロンロンもご覧の通り、わずかばかりの動揺もしては―――


 2人は、拳を腿の上で弾けんばかりに握りしめ、口が裂けるほどの力を込めて、歯ぎしりをしていた。


 ―――挑発が急所にクリーンヒットしていた。


 おい…。おい!


「…………ラビュー、ロンロン、大丈夫か?」

「なななな、何を心配してるのかな?私たちはこんなチンケな”煽り文句”じゃ、心が揺さぶられないよ。鋼のハートを持っているもん!」

「そそそそ、そうだぞ。わ、我は今すぐテーブルをひっくり返して、全てを台無しにして殴りかかろうだなんて、少しも思っていない」


 鋼のハートはブレまくりだし、すぐにでも戦闘開始しそうな勢いであった。

 全然大丈夫じゃない。


 ゴンッ


 鉄拳制裁を喰らわせたのは、今後は双子の妹の方、リンリンである。

 ラビューとロンロンの頭が潰される。


「2人とも、アホなこと言ってないで、さっさとゲームに戻りなよ。集中して。状況は五分五分で残り2ターンしかないんだからね。負けたら承知しないよ!」


 そう言って、2人を鼓舞していた。


「茶番は終わったか?」


 ブリュードが聞いてきた。


「茶番は終わったよ!」


 ラビューは勢いよく答える。

 自分で茶番だって認めちゃったよ。


「それじゃあ、3ターン目を開始する。今度は俺がサイコロを振る番だな。…覚悟しな」


 ブリュードはそう言いつつも、大サイズのサイコロを回収。自チームの台座にセットした。

 ゲームへと真剣に取り組むモードに戻ったラビューとロンロンは、出目が何になるかの予想を始める。

 ヒソヒソと話しながら。


 3ターン目は敵が有利なターン。そして4ターン目はこちらが有利なターン。

 ということは、3ターン目で、リードでも奪おうものなら、”ウインド・ダイス”において、かなり勝利に近くのだ。

 予測の目を何にするのか。この話し合いは極めて重要であった。

 2人の決断やいかに。


 話すことの多い敵チームと比較して、こちらのチームは少し早い段階で相談を終えていた。相手をじっと見ながら待ちの時間になる。

 ブリュードとチューンの相談が終わり、中サイズのサイコロの目をセットしたようだ。


「それじゃあいくぞ。いいな?」


 ブリュードは、台座に手をかざし、いつでもサイコロを飛ばせる態勢を整えた状態でそう聞いてきた。

 ラビューとロンロンは、黙ったままでうなずいた。

 こちらチームの準備は終わっていた。


「フンッ!!」


 ブリュードが力を込めた瞬間に、サイコロは上方向へと吹っ飛んでいく。

 それとほぼ同じタイミングで、自分たちのサイコロを隠していたラビューの手がどいた。

 予測した目が見えた。


 2人が選んだ目は、なんと「3」だった。


 「3」だと!?


 俺は、2人の選択に対して、動揺させられてしまう。

 「3」が、予測に際して、いい目だとは思えなかったからだ。


 もしも、今打ち上がったサイコロに「弱」の風が当てられていたとすると、「3」の目がでる確率は、12.8%となる。およそ1/8ほどの確率だ。

 サイコロに「強」の風が当てられていたとすると、「3」の目がでる確率は6.4%ほど、およそ1/16ほどの確率まで下がってしまう。


 「強」「弱」の風、どちらが選ばれたにしても、確率的にはいい目ではない。

 選びにくい数字だ。

 2人は、ぴったりと目を当てて、10pt、取ることはあきらめたんだろうか?


 …それならば、「3」の目の選択は理解できる。


 例えば、「弱」の風で最も出る確率が高い「1」の目が出た場合だと、4ptが手に入る。

 そして、「強」の風で最も出る確率が高い「6」の目が出た場合だと、3ptが手に入るのだ。


 「1」の目を予想し、出目が「6」で1pt、といったひどい結果は避けられる。


 2人は自分たちが不利な敵がサイコロを振るターンで、大負けしない無難な選択をしたのか?

 真の勝負は4ターン目だと。


 それとも、別の作戦によって導き出された結果か?

 ラビューの策によるもの。


 ラビューとロンロンによる「3」の目の予測が正しかったのか、間違っていたのか、全ては、敵チームの予測の目と、風の強さ、そして今まさに空を飛んでいるサイコロの出目次第であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る