4-11 ウインド・ダイス【3】
「ラビュー、みんなが言っている通りだ。何か決定的な勝算がなければ、このゲームは受けられない。100万
「決定的な勝算があると思ったから、私は、みんなに”ウインド・ダイス”で勝負することを提案しているんだよ」
ラビューは、自信ありげな表情でそう言ってきた。
「……負けて、みんなになじられて気持ちいい、とか言わないよな?」
「え?キンと一緒にしないでよ。私はTPOを分けることができるから」
それじゃ、俺が時と場合の見極めができないマゾみたいじゃないか。そもそもマゾじゃないけど。
「100%勝てるのか?」
「100%勝てるゲームなんて、存在しないってことはキンだってわかってるんでしょ。100%ではないよ。だけど、勝算はかなり高いと思う」
ラビューは、俺たちが誰も考えつかなかった策にたどり着いたというのか。
「キン。ここまで言うんだし、とりあえず、その策を聞いてみたら?ダメだったらゲームを受けなければいいだけの話しじゃないの」
「ああ、そうだな。ラビュー、どんな作戦だか教えてくれ」
「うん。あのね。実は―――」
そう言うとラビューは、いまだに一生懸命サイコロを回し続けてくれているランランを除く全員に、ひそひそ声でラビューの作戦を伝えてきてくれたのであった。
********
「ランラン。サイコロとか台座とかはどうだった?」
「概ね、ブリュードが伝えてきた通りの確率で動作していると考えて、間違いないとは思うよ。”今は”だけれども」
ランランは含みを持たせつつも、ゲームに使う道具のチェックに問題がないことを教えてくれた。
それならば、問題はないはずだ。表面上だけでも、フェアな状況が保たれていればそれでいい。
「随分と待たせてくれたな。こんだけ待たせたんだから、ゲームから逃げるだなんて言わないだろうな?」
ブリュードは半笑いで、挑発気味の口調でそう言ってきた。
「ああ。”ウインド・ダイス”で勝負するぜ。賭け金はこれだ」
俺は、テーブルの上に置かれたブリュードたちの賭け金の100万
俺たちはラビューの意見を聞いた。
ラビューの話の内容は、俺たち全員を納得させるのに、十分な説得力のあるものだった。彼女の話からは、勝利という名の光が見えたのである。
俺は、それでも勝負を受けることを躊躇ってしまったのだが、多勢に無勢。多数決のような形で押し切られてしまう。
大丈夫だろうか…。不安は消えていない。
「オッケー。賭け金はこれでいい。後は、ゲームをするプレイヤーだ。そっちの2人は誰になる」
「ピエロ&ドラゴンチームのプレイヤー2人は、ロンロン―――」
「おうっ!」
気合の入った声と共に、前に出る。
「―――それと、ラビューだ」
「イエイ!」
ラビューは、真面目だとは思えない声を出しつつ前に出て、ロンロンに並んだ。
ピエロ&ドラゴンは、ロンロンとラビューに100万
「俺たちのチームは、俺に追加してチューンが参加する」
カラーギャングチームは、ブリュードとチューンという男がゲームをプレイすることになった。
チューンという名の男は、後ろに控えていたカラーギャングの集団の中から一歩前に出てくる。
チューンは、ネズミのような人間というか、人間のようなネズミというか、何とも形容しがたい見た目をしていた。
獣人の血が混じっていることは間違い無いだろう。
「はい」
チューンは、小さな声でそう返事した。
「道具は、私たちが好きに選ぶからね」
ランランはそう言うと、手前側にあった台座と中サイズのサイコロを1つずつ、こちら側に引き寄せた。
ランランはもちろん、2つの台座、3つのサイコロの全てをチェック済みだ。
念には念を入れて、選択をしたのだろう。
ゲームの参加プレイヤーとならなかった者たちには、道具のすり替え等が行われないようにと目を光らせる。戦いはすでに始まっているようなものである。
油断したら、ランランがチェックをしたことが無駄になってしまうかもしれない。
イカサマは禁止。
イカサマの指摘は、参加プレイヤー以外にもすることができるのだ。
見るべきところは、きちんと見ておかなければいけなかった。
「さあ、プレイヤーはテーブルに座りな」
ブリュードは、ゲームをする4人掛けのテーブルに着席するように促してきた。ロンロンとラビューは指示に従って、黙って席に着いた。
ロンロンとラビューが隣同士、敵チームのブリュードとチューンと向かい合って席に座った。
お互いが真剣な面持ちである。
「先攻後攻を決める。中サイズのサイコロを持て」
こちらのチームはロンロンが、敵チームはチューンがそれぞれのチームのサイコロを持ち、テーブルに投げた。
ロンロンのサイコロは「2」の目を、チューンのサイコロは「6」の目を出した。
「先攻は俺たちのチームになる。全4ターンのうちで、1ターン目と3ターン目を俺たちのチームが、2ターン目と4ターン目をお前らのチームがサイコロを振ることに決定した」
ブリュードはそう言った。
これで、”ウインド・ダイス”をプレイする上で、決めなくてはいけないことが全て決まったはずだ。
「それじゃあ、”ウインド・ダイス”、スタ―――」
「ちょっと、待った〜!!」
そう言って、ブリュードの言葉を遮ったのは、ラビューだった。
ゲーム開始の合図を遮られたブリュードは、不愉快そうな表情をしている。
店内にいる全員が、ラビューに注目をする。
今更、ゲーム開始を中断する理由は何だ?
仲間の俺ですら、ラビューの意図に検討がつかなかった。
「ロンロンこれを被って。仲間の証だよ」
そう言うとラビューは、どこから出したのか、本当にどこから出したのかわからないカラフルな帽子を2個取り出した。
本職のピエロが被っているようなやつ。
魔法でも使ったのか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
どうしてこのタイミングで帽子を出したんだ。
困惑するロンロンを無視して、ラビューはロンロンの頭の上に帽子をのせた。
ロンロンは一気に、愉快なお兄さんに大変身をした。
「うんうん。いい感じ。ロンロンにはこの帽子が似合うと思ったんだ!」
ラビューは満足げにそう言った。
ロンロンをじっくりと観察した後で、ラビューは残りの帽子を自分で被った。
「ウィーン。ガチャン」
そんな効果音と共に。
実は、ゲームをするプレイヤーとしてロンロンを指名したのはラビューである。まさか、選んだ理由はピエロの帽子が似合いそうだから、とかじゃないだろうな?
おい…。おい!
ラビューに色々任せたのは自殺行為だったかもしれない。
今や、勝負の場に愉快なピエロが2人出現していた。
……シリアスな空気が台無しである。
敵味方問わずに、全員が呆然とさせられてしまっていた。
ラビューはどこから取り出したのかわからない鏡で、ピエロの帽子を被った自分の姿を隅々まで確認。前髪とかを直していた。
自分の姿に満足したのか、鏡をしまい、敵チームの2人の方を見た。
「あんたたち見たいなマヌケ野郎に、私たち”ピエロ&ドラゴン”が敗北することは、天地がひっくり返ってきてもありえない!100万
ラビューは敵味方問わずに、店内にいる全員を置き去りにして、場の空気を全て自分色に染めた状態で、元気よく、ゲームの開始の宣言したのであった。
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