3-29 最後の企み

 ギャンブル終了後は、賭け金の精算である。


 賭け金を支払ってもらうまでに、もう一悶着あることも考慮したのだが、スイープは素直に賭けた物を渡してくれるようであった。


「おい」


 スイープは部下を呼ぶようにそう言った。


 しかし、この場にいるブロックン・ファミリーの構成員は、スイープ以外の全員が気絶してしまっている。


 返事をしてくれるものが誰もいないことに気が付いたスイープは、舌打ちをすると自ら金庫へと金を取りに行った。


 そして100万Dドリームの札束5つをテーブルの上に放り投げる。


 俺はそれをありがたく受け取る。


 そして、代金と引き換えに5,000枚の「Dドリームミリオンズ」の券が渡すのであった。


「用が済んだらさっさと消え失せな」


 スイープは乱暴な口調でそう言った。


 自分たちが有利なはずのギャンブルで負けたことに腹を立てているのであろう。


 俺とリンリンも無用なトラブルは避けたいので、ブロックン・ファミリーの倉庫から早急に立ち去ろうとする。




「よし、そうしよう」


 俺はもうひとつだけ、本日やらねばならないことがあった。面倒なことはもう全部、ここで済ましてしまおう。


 これさえやれば、本当に終わりなのだから。


「お願いがあるんだけど───」


 俺はスイープの方を見たながら、そう言った。


「はぁ?」


 スイープは、ふざけんな、と言わんばかりの表情でこちらを睨む。


 これ以上なにがあるのか、と。


「もう、1枚だけ「Dドリームミリオンズ」買ってくれない?」


 俺のお願いとは、さらなる宝くじの購入であった。我ながら相当図々しい頼みごとだと思う。


「何言ってんだよ、兄ちゃん...」


「キン?」


 リンリンも不思議そうな顔をして俺を見ている。


「まあまあ、5000枚も買うなら、5001枚でもそんなに変わらないでしょ」


 俺はそう言いつつも、さらに1枚の「Dドリームミリオンズ」を取り出した。


 押し売りである。


「チッ」


 スイープは、本日最大の大きさの舌打ちをする。


 そして、懐から1,000Dドリームを取り出した。ヤケクソな手つきである。


 俺はそれを受け取り、今度こそ本当にブロックン・ファミリーの元を去っていく。


 大逆転のための秘策は、2人で力を合わせたおかげでなんとか成功したのであった。



********



「この後、どうする?」


 リンリンが俺に尋ねてきた。どうするとは、宝くじの販売を続けるのかどうかということだろう。


 まだ、数百枚の「Dドリームミリオンズ」が手元に残っており、販売勝負最終日の時間も残されている。普段ならまだまだ、販売を続けている時間だ。


「いや、これで俺たちの営業は終わりにしよう。もう十分すぎるほどに頑張ったさ。後は、ゆっくり休んでこれからに備えようぜ」


 ”本店チーム”と”チームレジスタンス”の販売枚数、最終結果を発表するのは明日の朝である。


 最後の日は、さすがにリンリンも店に来るだろう。


 販売枚数にミスがあるといけないので、最終集計は各チームの売れ残った「Dドリームミリオンズ」の枚数を数える形で行われる。


 10,000枚から在庫の枚数を引いた数が、販売枚数として確定される。



 俺たちは残った仕事を終わらせていく。


 代理販売をお願いしていた店に周り、余った宝くじと売上金を回収する。


 そして、13日目と14日目に売った宝くじの枚数を把握することができたところで、今日やるべきことはなくなった。


 長い2週間の戦いが終わった。


 疲れ切った俺とリンリンは、泥のように眠るのであった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売終了、翌日。


 朝、俺とリンリンは売れ残った「Dドリームミリオンズ」と共に、”ピエロ&ドラゴン”に来た。


 リンリンが店に入るのは、2週間ぶりのはずだ。姉と兄に再会するのも2週間ぶりである。


 販売枚数で勝負をしているランランとリンリンは目も合わそうとしない。


 結果次第で、どちらかが店を去ることになっている。


 集計結果はもうすぐでる。


 枚数の集計は全員で行うほどの手間がかかるものでもないので、主にジェスターがやってくれていた。



 13日目と14日目の除いた、各チームの販売枚数は以下の通りであった。


―――――――――――


経過日数 : 12日 / 14日


2日間の販売枚数 :

<本店>     1,177枚

<レジスタンス> 728枚


全日程合計販売枚数 :

<本店>     6,250 / 10,000枚

<レジスタンス> 3,844 / 10,000枚


両チーム合計販売枚数 : 10,094 / 20,000枚


消化日程 : 85.7%

販売割合 : 50.5%


―――――――――――


 ”本店チーム”と”チームレジスタンス”の間に大きな差がついている。


 ジェスターが最終結果の計算をしている隙を伺い、俺はロンロンに”本店チーム”が何枚売れたのかを聞いてみた。


「最後の2日間、どうだったんだ」


「我々のチームは、ぴったり「1,000枚」だったぞ」


 よしっ!俺は心の中でガッツポーズをする。


 俺の話が聞こえていたリンリンの耳が、ぴくりと反応をする。


 俺たちは13日目と14日目で合わせて「351枚」の宝くじを販売していた。


 この枚数が、いつもの2日間よりも少ないのは、実質14日目はほとんど営業をしなかったからである。


 ギャンブルの勝負をしていた。


 ロンロンに教えてもらった結果によって、ブロックン・ファミリーに販売した「5,001枚」を除いた宝くじの販売枚数は以下のようになることがわかった。



14日間の販売枚数 :

<本店>     7,250枚

<レジスタンス> 4,195枚


<合計>     11,445枚



 本店チームの圧倒的な勝利だ。俺とリンリンは全くもって歯がたたないままで2週間の時間を終えたのであった。


 ただし、ここに「5,001枚」の販売枚数が追加をされる。


 リンリンは頭の中で、この勘定を行ったのだろう。勝利を確信してもう一度耳が動いた。


 リンリンは結果を



14日間の販売枚数 :

<本店>     7,250枚

<レジスタンス> 9,196枚


<合計>     16,446枚



と思っているはずだ。


 まごうことなき、”チームレジスタンス”の大勝利である。


 俺とリンリンが全力を尽くしたが故に勝ち取った結果である。



 ジェスターの集計は佳境を迎えていた。


 さて、このままいけば姉のランランは店から去ることになってしまう。


 リンリンがそのことを忘れているはずがない。


 どうするのかと、姉妹を観察してみると、ランランは口をムッと閉じたままでそっぽを向いている。リンリンは口を小さくパクパクさせているのだが、言葉を発するまではいかなかった。


 戦いが終わって勝敗がついていないこの瞬間は、お互いが仲直りの提案をできる絶好のチャンスなのにも関わらず、2人は動こうとしない。


 双子は、お互いに手を差し伸べることができなくなっているのだ。


 意地っ張り。


 兄のロンロン、妹たちへの評価を改めて思い出す。



 ったく、しょうがねえな。



 やっぱり、俺が何とかするしかなかったようだ。


 店主、兄の両方にもお願いされたしね。



「集計結果がでました」


 ジェスターがそう言い、皆の注目が集まる。



「「Dドリームミリオンズ」、合計販売枚数は「16,446枚」」



 ジェスターの集計結果は、俺の頭の計算とぴったり一致した。


 当選した人への賞金、割引した分やグッズなどの諸々の経費を差し引いて、店の利益は500万Dドリームほどのなったそうである。


 宝くじを使ったビジネスは大成功を収めることができた。


 これで当面は金の心配をせずに、店を経営していくことができるだろう。


 「Dドリームミリオンズ」の販売をすることにした、当初の目的は達成することができたのだ。


 ピエロ&ドラゴンとしての”勝利”はつかみ取ることができた。残された問題は、ランランとリンリンどちらが勝ったのかである。



 いよいよ勝利したチームが発表される段となった。


 これは宝くじの合計販売数以上に重要な結果だった。


 仲間の人生がかかっている。


 ランランとリンリンの眼光が鋭くなったのだわかった。



「「Dドリームミリオンズ」販売対決、勝利チームは、───」


 ゴクリッ。


 誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた。


 ジェスターの口の動きがスローモーションに見える。


 そして、放たれた言葉とは、



「───......なし」



「「......はい?」」


 双子は全く同じタイミングで、首を右に傾けてそう言った。


 さすがは双子!狙ってもできないような見事なシンクロ具合であった。


「ジェスター今、なんて言ったの?」


 リンリンが尋ねる。



「だから勝利チームはなし、販売枚数は両チーム共にぴったり同じ「8,223枚」。


要するに、”引き分け”ってことよ」

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