3-28 コンビネーション・クレイモア【6】
俺同様にリンリンも、スイープたちがどのようにメッセージを伝達しているのかを考え続けてくれていた。
彼女も死に物狂いで思考をし続けたのだ。
そして、俺が到達しなかった答えを導き出した。
内緒話は禁止。
このルールがあるために、リンリンの言葉は敵チームにも聞こえてしまっている。
仕切りの奥へと向かっていたスイープも足を止め、次のリンリンの言葉を待っている。室内にいる誰もが、リンリンの発言を聞き逃せないのだ。
全員が、リンリンの一挙手一投足に注目をしていた。
もし、本当にリンリンが敵チームの伝達方法を解き明かしていたら、スイープたちは他の方法に変えてしまうだろう。
敵たちも集中して話を聞いている。
しかし、次にリンリンが口にしたのは意外なこと言葉であった。
「あっ、ごめん。気のせいだったっぽい」
リンリンは、一瞬前の自分の言葉を否定する。
「チッ」
驚かされたスイープは舌打ちをして、仕切りの後ろへと行ってしまった。ゴトリアは、じっとこちらを睨んでいる。
「ごめん、キン惑わすようなこと言っちゃって。さぁ、泣いても笑っても最終ターンだよ。気合い入れて頑張ろうよ!
それで、終わったら何か、肉肉しいものでも食べようね」
「......あぁ、そうだな」
リンリンの言葉を聞き、俺は「設置人」としての役割を果たすために、地雷の位置の指定へと向かう。
なんだ、今の会話は。
彼女はおかしなことを言った。
リンリンの好物は甘いものであり、肉が好きなのはランランだ。
リンリンは、今のどうでもいいような会話の中にメッセージを仕込んでいた。
リンリンは敵のメッセージの伝達方法を解読したんだ。
そして、それをスイープたちに悟られないようにと俺に伝えようとした。
肉肉しいもの。
この言葉にどんな秘密が隠されているんだ?
時間がない中で作り、解くのだから、そこまで難しい謎になっているはずがない。シンプルに考えていいはずである。
肉...は、さすがに関係ないか。
リンリンがランランに化けている。
双子が逆転。
「逆」か?
この場合に逆になっているものってのはなんだ?
数字が「逆」?意味がわからない。
俺たちと相手の指定した地雷の位置が「逆」......にも、なっていない。
後は、人が「逆」とかか。
役割が「逆」?
そこで自分の中にあった、ひとつの固定観念に気づいてしまう。
そもそも、何故メッセージが”アレ”によって発せられていると思い込んでいたのだろう。
もし、それが「逆」だとしたら、謎は解けないだろうか?
俺は残りわずかな時間で必死になって、思考を巡らせていった。
********
数字の選択を終えた。
短い時間の中で、頭をフル回転させたせいで脳が疲れきっていた。
仕切りの奥から地雷の埋まったフィールドの方へと戻っていく。
今回ばかりは、スイープよりも戻るのが遅れてしまったようであった。俺と同じ「設置人」のスイープは、腕を組み、俺のことを待ちわびていたようである。
俺は、「
「「12」「13」「7」だ」
俺は本当に、今いった3つの数字のマスに地雷を仕掛けていた。室内にいる全員に聞こえるように、地雷の位置を宣言した。
もう、隠すことは何もない。
ギャンブルの決着はついたのだから。
********
敵チームのスイープとゴトリアは驚愕した表情で、その場に固まってしまっていた。
先攻のリンリンは「1」のマスを選択して、ためらいなく踏む。
もちろん、セーフである。
2人が驚くのも無理はない話だ。
俺が自分たちの地雷の位置を明かしてしまったから、だけではない。
俺が地雷を埋めた「7」「12」「13」は、ゴトリアが地雷を埋めたマスと完全に一致していたからだ。
後攻のゴトリアは、屍のような歩調で歩き、数字のマスを踏む。
混乱しきった脳や体を無理やり動かしている様子であった。
選択したマスは「10」、セーフだ。
リンリンはタタタタッ、と軽やかに地雷原を駆けていく。その動きに迷いは一切感じられない。
そして、ゴトリアが元の位置に戻りきる前に数字の「2」を踏んだ。
セーフ。
続いてゴトリアは「6」のマスを踏む。セーフである。
やるべきことが全て決まっているため、ゲームは本来ありえないほどの速度で進行をしている。
リンリンは番号順にマスを踏んでいくと決めたのだろう。
「3」を目掛けて走っていく。
リンリンが「3」を踏んだのとほぼ同じタイミングであった。
脳の混乱が収まってたきたのだろうか、ずっと沈黙していたスイープが、ついに口を開いたのであった。
「───なぜなんだ」
スイープはそう言う。
「なぜ、お前たちは俺の選んだ数字がわかったんだ」
「そんなのは、2人が使っていたメッセージの解読ができたからに決まってんじゃん」
リンリンが返事をした。
全ての謎を解いたのはリンリンである。彼女が種明かしをして、ゲームを終わらせるべきだと思い、俺は黙って見守ることにする。
「私とキンは何を考えても、敵チームがどうやって地雷の位置を伝え合っているのかがわからなかった。
私たちみたいに、『「30」と「32」の間』とか言って、暗号の本文がわかった状態で謎が解けない状態ならまだしも、いつメッセージを発しているのかすらわからない。
スイープがゲーム中にしゃべった内容から所作まで、全部洗いざらいに考えたにも関わらず。それじゃあ、謎の解きようがない。
でも、私はふと思ったんだ。
私と多分キンにも、とある”固定観念”がある。
メッセージはスイープが発している、ってね。
それはそうだよね。だってあんたはファミリー内でゴトリアよりも偉い役職についてるし、ゴトリアはあらゆる場面で兄貴、兄貴って持ち上げて指示に従っているような様子だった。
実際に、自分が兄貴の指示を聞いた、みたいなことも言ってたしね。
でも、それが「嘘」で「罠」だったんだ。
”コンビネーション・クレイモア”での地雷位置の選択は、全部ゴトリアがやってたんだ。
ギャンブル中の司令塔は、「逆」だったんだね。
私もキンも、ゴトリアがしゃべってる内容なんて、ただの戯言だと思ってスルーしてた。
でも、立ち止まってゴトリアの発言を思い返してみれば毎ターン開始時に、ゴトリアは必ず変なことを言ってる。
それはスイープとのやり取りの中で、例えば1ターン目の場合だと、
『「いいか、ゴンヘル!俺の思考をしっかりトレースしろよ」
「勿論です、兄貴!兄貴の考えを完璧に読んで見せますよ、兄貴!」
「いつも通りやればいい、ミスんじゃねぇぞ!」
「最高ですよ、兄貴。兄貴は兄貴の中の兄貴だ」
「行くぞっ!」
「兄貴っ!」』
って、具合だね。
こんなくだらないやり取りに、まさかメッセージが込められてるだなんて思いもしない。
地雷の位置と、ゴトリアの言葉だけを並べてみれば、
1ターン目が、
『「勿論です、兄貴!兄貴の考えを完璧に読んで見せますよ、兄貴!」
「最高ですよ、兄貴。兄貴は兄貴の中の兄貴だ」
「兄貴っ!」』
で、「2」「9」「20」。
2ターン目が、
『「最高ですね!」
「兄貴っ!兄貴っ!兄貴っ!」
「ブロックン・ファミリーの名にかけて!」』
で、「1」「4」「16」。
数字が隠されてるんだってみれば、謎が明らかになってくる。
やり取りは必ず、3往復する。これは地雷の数と同じ。そして、不自然に”兄貴”と連呼すること。
あんたたちのメッセージは「1~5」「6~10」「11~15」「16~20」の4パターンに分けられている。
結論だけ言えば、
何も言わない「無」は、「1~5」。
「勿論」は、「6~10」。
2ターン目時点ではまだわかっていない「?」が、「11~15」。
「最高」が、「16~20」
になるんだよ。
そして、”兄貴”と言った回数が0回なら「1、6、11、16」、1回なら「2、7、12、17」、2回なら「3、8、13、18」って感じでスライドしていくんだよ。
これがメッセージの秘密だねっ!」
スイープとゴトリアはあんぐりと口を大きく開いて、うんともすんとも言わなくなっていた。
拳くらいならば、すっぽりと入ってしまいそうにサイズに開口されている。
まさかと言った様子で、言葉が出なくなってしまっているんだろう。
スイープとゴトリアの秘密のメッセージは、丸裸にされてしまっていた。
リンリンはそのまま説明を続けていく。
「それでもって、3ターン目のメッセージはこうだった。
『「さすがは兄貴だ!未来を見通してらっしゃる」
「さすがは兄貴だ!兄貴は、赤子の腕をひねるのが得意なんですね」
「勿論です、兄貴!兄貴は極悪非道じゃなくて、聖人君子でしたね!」』
「さすが」は、ここで初めて聞くキーワード。だからこれが「11~15」だね。
「勿論」は、「6~10」で、後は”兄貴”の回数がら計算をすると、3ターン目にそっちのチームが選んだ数字は「7」「12」「13」になる。
「さすがは兄貴だ!未来を見通してらっしゃる」が「12」。
「さすがは兄貴だ!兄貴は、赤子の腕をひねるのが得意なんですね」が「13」。
「勿論です、兄貴!兄貴は極悪非道じゃなくて、聖人君子でしたね!」が「7」だね。」
全てが明らかになった後で、「設置人」の俺はリンリンからヒントをもらい、リンリンの思考の到達点まで追いついたのであった。
「兄貴...」
ゴトリアは不安そうな目で、スイープのことを見つめる。ゲーム内での司令塔はしていても、重要な局面で決断を下すのは兄貴のようであった。
「落ち着け、ゴトリア。地雷は6個、偶数個あるんだ。各ターンに引き分けはない。
そして、このままパーフェクトゲームを続けていけば、地雷を踏むのは先攻の敵チームなんだよ。
『パーフェクトゲームの場合は”先攻”が負ける』
これは、このゲームでの揺るがない法則だ。
敵はメッセージの解読が遅すぎたんだ。
それに、お前がこのターンに敵の地雷を踏んだって「−1pt」で、最終スコアで俺たちの勝利なんだ」
スイープは、自分自身が全くもって落ち着いていない様子でそう言った。かなりの動揺が見られる。
この場面で冷静だったのは、むしろゴトリアの方であった。
「違いますよ、兄貴。地雷の数は3個で奇数です。
敵は私たちと地雷の位置を完全に合わせてきたんですよ。2個ずつ埋まったマスが3つあるだけですよ。
パーフェクトゲームになると、負けるのは後攻の私たちです」
「あっ」
スイープはゴトリアに指摘をされて、その事実に気づいたようであった。
「それに、この場にある地雷を踏めば”大爆発”が起きてしまいますよ。
地雷は全部「−4pt」。私たちの逆転負けです」
全てゴトリアの言う通りである。”大爆発”を起こすことこそが、俺が地雷の位置を敵チームと合わせた真の狙いであったのだ。
”大爆発”が起きれば逆転勝ち。
ギャンブルの決着はもうついた後なのである。
後は、ほとんど消化試合と言った様子であった。
「
そして、いよいよ地雷原には「7」「12」「13」のマスしか残されていない状態になってしまった。
後攻の番。
数字選択はゴトリアが行う。
「アヒャ、アヒャヒャハハハ.....」
地雷が爆発するのはただの演出であり怪我なんて一切しないのに、ゴトリアは完全にビビりきった様子であった。
選んだ数字は「7」。
ガタガタと震えた足が、ゆっくりとマスへと向かっていき、今地面に触れた。
ズゴワァァァァンッ!!!
建物に飛行機でも突っ込んできたんじゃないかと思うほどの轟音が鳴り響く。黒煙が部屋中に充満をして、遠くで見ていた俺たちのことも巻き込んだ。
偽物の爆発だってわかっているのに、生命の危機を感じさせられてしまった。
”大爆発”にはとんでもない演出が隠されていた。
......完全に、やり過ぎだ。
爆心地にいたゴトリアというと、ビビりすぎて泡を吹いて気絶してしまっていた。
何はともあれ決着がついた。
全ターンが終了し、最終獲得ポイントは以下のようになった。
「キン&リンリン」チーム : −2pt
「スイープ&ゴトリア」チーム : −4pt
俺とリンリンは満面の笑顔でハイタッチをする。
敗北ギリギリまで追い詰められた戦いであったのだが、俺たちは”コンビネーション・クレイモア”でなんとか勝利をつかみ取ったのであった。
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