3-26 コンビネーション・クレイモア【4】
「このリードしていくぞ、ゴトリア!」
「最高ですね!」
「絶対に負けられねえからなっ!」
「兄貴っ!兄貴っ!兄貴っ!」
「行くぞ!」
「ブロックン・ファミリーの名にかけて!」
そんなやり取りを終えた後で、「設置人」のリンリンとゴトリアは、仕切りの奥へと向かっていった。
彼女らは現在、地雷を埋める位置を選んでいるんだろう。
リンリンがどの数字のマスを選んでいるのか、同じチームの俺でも知るすべはない。
「
思考すべきこともあるのだが、本当に脳を働かせなければいけないのはもう少したった後のことである。
待つだけの時間が続く。
数字選択を終えたリンリンとゴトリアは、地雷原のあるフィールド側へと戻ってきた。
彼女らもまた、ほとんど同じタイミングでの帰還であった。
悩んでいた時間は、そう長くはなかった。
数字のマスの選択はスイープからである。
しかし、その前にこなさなくてはいけないイベントがある。
「キン、「30」と「32」の間だよ」
リンリンは俺に対して、そうメッセージを伝えてきた。やらなくてはいけないイベントとは、「設置人」からメッセージを受け取り、自分のチームの地雷の位置を知ることである。
メッセージを受け取った俺は、瞬時に自チームの地雷の位置を把握する。
「11」「7」「20」
その3つの数字をリンリンは選んでいた。
メッセージは、俺が1ターン目に使ったのと同じ方法によって隠されていた。
俺は自分のチームの地雷を心配する必要はなくなった。後は、相手チームのメッセージを読み取れるかどうかである。
まさか、ゴトリアも1ターン目のスイープ同様に、無言のままメッセージを伝えないのかと思いきや、そんなことはなかった。
「兄貴、兄貴の指示通りに地雷を設置しましたよ」
「バカがっ!余計なことを言うんじゃねぇ!」
2人はそんなやり取りをしていた。
一連の会話に違和感を覚える。
兄貴が指示を出した?
地雷を選ぶ権限がない「
それじゃあ、役割が完全に逆じゃないか。
スイープが地雷位置の指定をしていたと仮定して、何かおかしなことは起きていないだろうか。違和感をさらに深掘りしていく。
そんなことを考えているうちに、先攻の敵チームのスイープが動き始めた。
スイープはゆっくりと数字のマスを見ながら、地雷原を徘徊していく。
どの数字を選択するのか、吟味しているように見える。
しかし、その真意はわからない。
一連の動作がただの演技である可能性だって捨てきれないのだ。
スイープがとある数字のマスの前で足を止めた。
視線の先にあるのは、「10」。
そこに俺たちの地雷はない。
スイープは数秒間、動作を止めた後で「10」のマスを踏んだのであった。
判定は......、無反応。
セーフだ。
スイープは「
スイープの表情をうかがうと、地雷がないことはさも当然であるかのような雰囲気を漂わせている。
数字のマスを吟味していたときと同じくらいの歩調で、元の位置へと戻っていった。
いよいよ、俺の番である。
俺はこのギャンブル・”コンビネーション・クレイモア”で初めての数字探索をする。
ゲーム内で、もっとも重要な仕事であり、絶対に地雷を踏むわけにはいかない。
リンリンが地雷を埋めた位置「7」「11」「20」は、わかっているのだから選択をしない。
スイープが選んだ「10」も選択肢から消えた。
残りは16マス、地雷は最大3個。
確率で考えるのなら、少なくとも今回の選択で地雷を踏む可能性はかなり低い。
ランダムで数字を選んでもセーフになりそうなものである。
俺はスイープと同じくらいか、それ以上に遅いペースで地雷原の中を歩き回っていく。そしてその時間を使って、ゴトリアがどこに地雷を埋めたのかの推理を進めていく。
先ほどの、スイープとゴトリアのやり取りを思い出す。
ゴトリアが口を滑らせたようにも見えた「兄貴が指示を出した」との発言の件だ。
兄貴、スイープは、1ターン目終了時からゴトリアが地雷位置の選択をするまでに、何を話していただろうか。
そこまで、多くの情報を口にしていたわけではない。
スイープは、地雷を踏んだ際の爆発の演出について話をしていた。
さすがにこれは、関係がないだろう。
指示は口から出していたとは限らない。ハンドサインとかの可能性はないか?
......俺が見ていた範囲の中では、スイープに疑うような動きは見られなかった。
そういえば、スイープは2ターン目開始直前にも何かを言っていた。
次は勝つと宣言した俺に対してこう言った。
『また、同じことの繰り返しさ』
同じことの繰り返し?1ターン目と同じ数字?
敵チームが1ターン目に選んだ数字は、「2」「9」「20」である。
まさか、ここに地雷があるってことか?
そんな大胆なことをするのだろうか?
可能性は......、ある。
そう判断した俺は、リンリンだけが選んだ数字「7」「11」、敵チームが選んだ数字「2」「9」、超チームが選んだ数字「20」を避けたマスを踏むことにした。
俺が選んだ数字は「5」。
宙に浮かせた数字を、マスに向けて下ろしていく。
足のつま先が地面に触れた感覚があった。
そのままの勢いで、踵まで足全体を地につける。
緊張の瞬間である。
閉じようとする目を強引に開いて、その瞬間を見つめていた。
結果は......、無反応。
セーフだ。
俺は、最初の数字の選択を切り抜けることができた。
一山超えたような気分になり、ホッとする。
敵チームのスイープの番へと戻る。
スイープは先ほどと同じような歩調でゆっくりと地雷原を歩いていく。
動作は鈍いのだが、何故か本気で迷っているようには感じられない。
そして、ひとつの数字の前で足を止める。
その数字は「7」。
俺たちの地雷が埋まっている場所だ!
万が一にも緊張が悟られないようにとし、平静を保つ。
スイープはじっと「7」を見つめていた。
踏むか、踏まないか、踏んでくれっ!
心の中でそう叫んでいた。
願いは通じなかった。
何を思ったのかわからないのだが、スイープは凝視していた「7」から1マスずれた「8」へと移動をする。
そして、そのまま「8」を踏んだのであった。
結果は当然、無反応。セーフである。
彼らからすれば幸運にも、俺たち目線から考えれば残念ながら、スイープはギリギリのところで地雷を避けたようであった。
さぁ、そして後攻である俺の選択の番がきた。
俺は、「2」「7」「9」「11」「20」に地雷が埋まっていると予測している。
地雷が埋まっていないマスは、まだまだたくさんある。
どのマスを踏んでも大差ないだろう。
しかし、俺が全ての地雷の位置に対してあたりをつけていることを敵チームに悟られるわけにはいかない。
俺は最大限に悩んでいる演技をしながら、地雷原を徘徊していく。
そして、俺は「4」の前で立ち止まった。
「4」を選んだことに、特に深い理由はない。
強いて言うなら、なんとなく良さそうであったからである。
あっさりとマスを踏んでしまったら怪しまれるかもしれない。
俺はここでも気を抜かずに悩んでいるフリをする。
ここがセーフで1マス潰したとしても、地雷が埋まっていないマスはまだまだたくさんある。
スイープの選択次第ではあるが、長期戦も覚悟しなければ行けないかもしれない。
そんなことを考えつつ、「4」のマスを強く踏んだ。
その瞬間のことである。
俺の視界は、強い光に包まれた。
一息遅れて、轟音が耳に届いてくる。
爆発だ。
俺は2度目の数字選択で、地雷を踏み抜いてしまったのだった。
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