3-25 コンビネーション・クレイモア【3】

「そうか、私わかったかも」


 そう言ったのは、リンリンであった。


「わかった?」


「うん。キンが地雷を埋めた場所」


 どうやらリンリンは、ゴトリアが数字のマスを選んでいる間もずっと、俺のメッセージの意味を考えていたようであった。


 そして、「8」が答えのひとつであることをヒントにして、メッセージの解読に成功した。


 俺は2回目の数字選択の前に、リンリンに新たなヒントを伝えることを覚悟していた。しかし、リンリンが地雷の位置をわかったと言うならば、その必要はなくなる。


 ゲームを一気に有利に進めることができる。


「大丈夫なのか?」


「大丈夫......、だと思う。いいや、間違いなく大丈夫!これしかないよっ!」


 リンリンは元気いっぱいにそう言ったのであった。そんなリンリンの様子を見て、俺も安心する。


 敵チームのスイープとゴトリアは、そんなやり取りをしている俺たちのことを、ただじっと見守っていた。


 彼らからは、俺たちのメッセージを読み取った風には感じられない。



 数字のマスを選択する「兵士ソルジャー」のリンリンは勢いよく地雷原へと進んで行った。


 「8」以外の、俺の地雷が埋まっている場所は「12」と「19」であるのだが、リンリンは「12」の周辺に近づいていき、一瞬ドキッとさせられる。


 メッセージは正しく伝わっていないのではと思ってしまった。


 今回のリンリンは俺に全く確認をすることなく、数字のマスを踏んだ。


 「11」


 俺の地雷が埋まっているマスではない。


 可能性としては、スイープの埋めた地雷があるだけであるが、結果は......無反応。


 セーフだ。


 地雷が埋まった「12」の隣をリンリンはあえて踏んだのであり、敵チームを惑わす作戦であったようだ。


 リンリンは、俺のメッセージを正しく理解してくれていた。


 これでもう、俺たちのチームが自分たちの地雷を踏む心配をする必要はなくなった。


 後は、敵チームの地雷の位置を暴くだけであった。



 続いて、後攻のゴトリアが数字のマスを選ぶ番だ。


 結局と言うか、やはりと言うか、スイープは全くもってゴトリアへのメッセージを出そうとしない。


 スイープは決して寡黙な人間ではない。


 それは、俺が彼と関わったわずかな時間の中でも感じられることである。


 スイープは、何かの意図を持って黙っているように思えた。


 しかし、その意図が全くわからない。


 そんなことを考えているうちに、ゴトリアは1つのマスを踏んでいたようだ。


 数字は「1」。


 無反応、セーフである。


 ゴトリアの所作から推測するに、俺が地雷を埋めた場所がわかったのかどうかは知らないが、少なくとも敵チームの地雷の位置は伝わっているように思える。


 「8」を除く、後2個の地雷のみを探している。


 続いて俺たちのターン、危険な地雷探しはまだ続く。




 リンリン「4」、ゴトリア「14」、リンリン「5」、ゴトリア「15」と地雷のマスを踏んでいく。


 その全てセーフであり、残りのマスは12個となった。


 地雷は最大で6個埋まっているので、残りのマスの半分に地雷が埋まっている可能性がある。


 いよいよ、危険な領域に差し掛かってきた。


 自分のチームの地雷の位置はわかっているので、まだセーフになる可能性が高いはずである。


 それでも、ここからはさらに慎重になってマスを選ばなければいけない。


 リンリンの表情は硬直をして、じんわりと汗が滲んでいた。


 悩んだあげく、リンリンが選択をしたのは「2」のマスであった。


 右足をあげ、「2」のマスを踏み抜く。



 その瞬間。


 大音量の爆発音が響いた。


 そして、リンリンの体は一瞬にして、火の粉と黒煙に包まれてしまう。


 地雷を踏んだ。


 それはすぐにわかった。


 しかし、まさか、本物の爆発に巻き込まれてしまうなんて!


「リンリンっ!!」


 俺は我を忘れて叫んでしまう。


 駆けよろうにも、リンリンがどこにいるのか見えない。


「......キン」


 黒煙の中からリンリンの返事が来た。


 よかった、生きてる。


「キン、これ本物の爆発じゃないよ。ただのグラフィックだ」


 グラフィック?


 そう言われて冷静になってみれば、室内で爆発をしたのに何の匂いもしない。


 煙が晴れてリンリンの姿があらわになると、リンリンは数字のマスを足で踏んだままの状態で立っていた。



「ケケケケッ。演出は楽しんでもらえたか?」


 ずっと黙っていたスイープは、笑いが抑えきれない様子で話をする。


「クククッ。兄貴は親切にもルール説明で怪我をしないって教えてあげたのに、こんなにも驚いてくれるなんて最高ですね」


 ゴトリアもまた、笑っている。


「これは変幻系の魔法を仕込んで、爆発を再現してみただけさ。見た目も音もリアルだっただろ?”大爆発”を起こせば、もっと派手な演出がみられるぜ」


 俺たちのチームは、スイープが埋めた地雷を踏んでしまったのだ。


 その結果がこれである。



 爆発の演出が終わって、数字のマスにはどの位置にどちらのチームが地雷を埋めたのかが光の文字で表示された。


 俺たちの地雷は、当然「8」「12」「19」である。


 そして、敵チームの地雷は「2」「9」「20」であった。


 これは次のターンからのヒントになるので、よく覚えておかなければいけない。


 敵は何かしらの手段を使って、スイープからゴトリアへ「2」「9」「20」の数字を伝えたはずだ。


 それがわかれば、敵チームの地雷を踏むことはなくなる。


 それは相手にも同じことが言えるのであり、先ほどまで笑っていたスイープとゴトリアは真剣な表情に変化し、俺の地雷を埋めた数字のマス「8」「12」「19」を見て、何かを考えているようであった。


 何とかして敵のメッセージの伝達方法を暴きたいのだが、動かなかったスイープから得られた情報は少なすぎた。


 全くもって、手がかりがなかった。



 地雷を踏んでしまったリンリンは、シュンとした表情で俺の元へと戻ってきた。


 耳も尻尾も垂れてしまっている。


 リンリンを責めることはできない。


 「兵士ソルジャー」としての役割をしっかりと果たしてくれた。


 打ち合わせなしで俺からのメッセージを読み解いてくれたのだ。敵の地雷を踏んでしまったのは運の要素が大きく、仕方がないことであった。


 むしろ、ここからが本番である。


 両チームは、敵の埋めた地雷の位置がわかったのだ。


 この情報を勝利へと繋げなければいけない。



 とにかく1ターン目が終了し、ポイントは以下のようになった。



「キン&リンリン」チーム   : −1pt

「スイープ&ゴトリア」チーム : 0pt



 出だしでつまずいてしまったのは悔しいが、落ち込んでいる暇なんてない。まだまだ、後2ターンも残っている。



 2ターン目での先攻は「スイープ&ゴトリア」チームで、後攻は俺たちである。


 役割も交代をし、地雷を埋める位置を選ぶ「設置人」はゴトリアとリンリンが、数字のマスを選ぶ「兵士ソルジャー」は、スイープと俺が担う。


 1ターン目を落としてしまった俺たちは、2ターン目で絶対に負けるわけにはいかない。


「次は勝つ」


 スイープたちを睨みながら、俺はそう宣言する。


「また、の繰り返しさ」


 スイープは、挑発するようにそう言った。


 運命を決める2ターン目が始まろうとしていた。

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